リアルな裏側
★★★★★
本書は同氏が肺炎で亡くなる100日前までに、手帳に残した71歳から79歳までの
メモからなる。書き込みは月に二度、あるいは多くて七度あたりである。
したがって、読む側からすると、ちょうど高齢者には時間の流れが早く感じるという
その早さに、自分が同期してしまっているというリアルな感覚を覚える。
言い換えれば、人生は長いようで短い、という感覚がストレートに伝わってくる。
全体的には、72歳で良き伴侶をガンで失った寂寥感が通奏低音のように流れる中、
なかなか活動的でもある。旅行を好み、赤ワインを飲み、財界人とのゴルフを楽しむ。
よく歩くことを心がけ、体重の増減に一喜一憂する。
そうした中で、著作活動も続けるが、74歳あたりから、物忘れが激しくなる。
晩年は、「眼前これ人生、眼前のみこれ人生、であれば目先のことしか考えぬように
しよう、目先のことだけ楽しんで生きよう」と自分に言い聞かすようなメモも増えていく。
これは亡くなる前年のメモに頻出する。最後のメモは「一回限りの人生、とにかく
楽しく気ままに楽に生きること!」でこの日録は終わる。
人は自分の死を論評することは出来ない。しかし第三者からすると、最後のメモに
書かれたことにほぼ近い人生を同氏は送られたように思う。
なによりも、伴侶亡き後、子供たちの同氏へのフォローが、それを全うさせたと
感じられる。多くの人に推薦したい。