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ニコライ遭難 (新潮文庫)

価格: ¥620
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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明治人の気骨、息つく暇もない面白さ ★★★★☆
日本を訪問していたロシア皇太子ニコライは、滋賀県大津で、
警護に当たっていた巡査津田三蔵に頭から、サーベルで斬りつけられ重傷を負う。
津田の犯行の動機はニコライが日本侵略の野心を隠しており、
明治天皇の好意に対して感謝が足りないと思い込んだからであった。

日本政府はこの事態に、ロシアの報復戦争、巨額の賠償金におびえることとなった。
近代国家として歩み始めたばかりの日本政府は未曾有の国難に直面することとなったのである。

津田は裁判にかけられる。
ニコライが一命を取り留めたことで津田の容疑は殺人未遂である
。薩長で固められた政府側は、ロシアにおびえ「皇室罪」を適用しての死罪を主張。
しかし「皇室罪」外国のロイヤルファミリーには適用されないとして毅然として反駁したのは大審院だった。
「裁判官は職務上、服従する義務はない」

吉村さんの筆は、あくまでも冗長を避け、
取材による、圧倒的な事実を積み重ね、
明治人の国難に対しての気骨を描いてゆきます。
息つく暇もない面白さです。
明治初期、日本最大の国難 ★★★★★
 来日中の皇太子ニコライを日本人警官が切りつけた。当時の日露間の国力からすれば、日本は何をされるかわからない。政府は犯人を法を曲げて死刑にしようとする。しかし児島惟謙はあくまで法の独立を守り、無期懲役を通そうとする。
 これは近代国家としての日本が直面した最大の危機であった。国家としての独立を守りつつ、また法治国家としての原則を守り抜くことができるか。淡々と、綿密な調査にもとづく筆致は、むしろ抒情的な描写につながる。近代社会における「法」とは何か、考えさせられる。手に汗握りながらたちまち読み終えてしまう一冊だ。
 
日本の歴史 ★★★★★
明治時代、大国ロシアの皇太子に切りつけたのは、警備していた日本の警官だった。ロシア皇太子を迎えるために、国民あげての歓迎ムード。事件に対する政府や国民の狼狽ぶり。犯人の裁判をめぐる政府と裁判所の確執。近代国家への脱皮に向けて、国難に日本人はどう対処してきたかがよくわかる本です。中立的視点で、多面的に淡々と描いていきます。吉村さんらしい作風です。日本が通ってきた道がよくわかります。面白い本です。
揺るぎなし、吉村が描く明治国家 ★★★★★
ロシア正教への関心から明治の宣教師ニコライの資料を探索中、皇太子ニコライ、のちのニコライ二世の関連書籍に出会った。ネットで検索すればこその奇遇である(前者のほうが32歳年長ながら両者は同時代人であり、本書にも前者が登場してくるのは嬉しい)。それらのなかで真っ先に本書を選ぶのに躊躇しなかったのは、かつて吉村昭の作品を貪るように読み、ほぼ全作品を読了しているからだ。最後に『闇を裂く道』を読んだのは6年前に遡るのだが。
吉村氏の資料収集と取材への情熱、揺るぎない文体はどの作でも一貫しており、読む者に与える安心感と信頼感は、他の凡百の歴史小説家の追随を許さない。氏の淡々たる叙述がどうして息をもつかせないのか、訝らずにはおれないほどだ。
近代史を齧った者には周知のニコライ皇太子襲撃事件、1891年の「大津事件」であるが、なぜ一介の巡査が大罪を試みるに到ったかは謎に満ちており、誰が書いてもそれなりにおもしろい小説に仕上がる可能性を秘めている。しかし、吉村氏の真骨頂は別のところにあろう。この事件に凝縮した「日清戦争前の日本とロシアとの関係、日本人のロシアに対する感情」(あとがき)を通奏低音としているのがその一つ。艦隊を率いたロシア側の示威と日本側の懐柔が、ニコライ訪日のそもそもの裏事情であればこそ、事件後の政界中央の懊悩は想像に余りある。日清・日露の戦役を経るまでの「小国」日本の、あがきと焦慮がここに炙り出されている。ニコライ一行の行状についても、吉村氏ならではの興味深い細部を味読することができよう。
しかし、著者は最後の三分の一のスペースを割いて、さらなる「サスペンス」(としか呼びようのないもの)を用意している。早起き鳥が囀り始めるまで、最後の一頁まで本書を伏せることができなかった理由もまたそこにあるのだが、明治国家日本の真相の一つに迫れるその詳細はサスペンスとして書くのを控えておこう。