おんな三代の物語
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男女同権なんて、夢のまた夢、幕末の時代の物語である。
男がみんな肉食系で、草食系でも見合いで結婚させられた。
フィリップ・フランツ・バルタザール・フォン・シーボルトはドイツの医師・博物学者。
1823年に来日、長崎出島のオランダ商館医となる。オランダ人を名乗ったが本来はドイツ人で、日本の国情を視察する任務を負っていた。
鳴滝塾を開設し、蘭方医学教育を行う。塾生として高野長英・二宮敬作・伊東玄朴・小関三英・伊藤圭介らがいる。
妾としたお瀧は、長崎丸山町遊女源氏名、其扇(そのおうぎ )で、シーボルトとの間に私生児イネが誕生する。
シーボルトは1828年、国禁となる伊能忠敬の大日本沿海輿地図、鳴滝塾門下生に訳出させた数多くの日本に関する資料の
国外持ち出しが発覚し(シーボルト事件)イネが2歳の時に国外追放となった。
イネは、シーボルト門下の二宮敬作から基礎を学び、石井宗謙から産科を学び、村田蔵六(後の大村益次郎)からはオランダ語を学んだ。
その後、京都で大村益次郎が襲撃された際には、大村を看護し、その最期を看取っている。
1858年、日蘭修好通商条約によってシーボルトの追放処分が取り消されると、再来日したシーボルトと長崎で再会し、父から直接医学を学ぶ。
この間、シーボルトは家政婦として母お滝・イネが雇ったシオを犯し、イネを深く失望させる。
イネは生涯独身だったが、師である石井宗謙に強姦され、娘ができる。イネは石井宗謙の元を去り一人出産、
生まれた娘に「ただの一度で出来た子・タダ」(後に高−タカ−と改名)と名付けたとされる。
つまり、この物語は女にだらしのない男に苦しんだ、滝、イネ、高の物語なのである。
夢中になって読みました。
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こんなに面白い歴史小説は久しぶりに読みました。とにかくグイグイと引き込まれます。三代にわたる女性の生きざま、我が国の医学の歴史、そして政治史。この作者にはもっと早くに出逢いたかった、そう思わせる大作でした。
壮大なドラマ&歴史が学べるお勧めの本
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ナポレオン戦争後、オランダ政府は国を立て直す必要があった。将来の発展を期して対日貿易に糸口をつかもうと、ドイツ人医師のシーボルト(当時27歳)を調査員として日本へ送り込んだ。
彼は、医学で日本に大いに貢献したが、一方で彼の弟子たちの論文から日本の国情を探り、江戸参府の折には念願の日本地図を入手した。シーボルトはそのあと国外永久追放となってしまうが、丸山遊郭の遊女、其扇(お滝)とのあいだに愛娘のイネを設けていた。が、イネがまだ生後2歳半のときに日本を去ってしまった。
イネは、学問、特にオランダ語の習得に熱心で、13歳のとき伊予へ赴き、シーボルトの愛弟子だった二宮敬作にオランダ語と医学を学び、その後、岡山の石井宗謙のもとで産科を学んだ。
一方、シーボルト。彼は、再び来日することを切に願い、ペリー来日の折には、派日使節の顧問をペリーに掛け合ったりするなどしていたようだ。が、実現できなかった。このころ、イネは、二宮の薦めで宇和島藩主伊達宗城の下にいた蘭学者の村田蔵八(後の大村益次郎)からオランダ語を学んだりしていた。
シーボルトは、30年後に再来日を果たした。日本の国情も変わったので、彼は幕府の外交顧問となって活躍した。長くは続かず再び帰国してしまうが、イネのほうは、このころ、父の取り成しでオランダ医官ポンペから最新の医学を学んだ。
時はながれ、明治の治世を迎える。彼女は、44歳。東京へ出て産科医として宮内庁の御用係となった。日本初の女医として一躍世間から注目を浴び、福沢諭吉らとも交流を持ち、新時代の具現者として見られるようになっていた。
この小説は、シーボルトの息を受けた“あいのこ”イネがその特殊な境遇にあって激動の時代を生きた姿を大河ドラマ仕立てで描く。イネの行動半径が広がるにつれ、長崎や宇和島、その他その時々の日本国内の動向や世界情勢に沿って話が展開していき、坂本竜馬や西郷隆盛らも登場するなど、幕末から明治維新に至る歴史が一通り学べてしまうという優れ物の歴史小説であり、是非お勧めしたい本のひとつである。
ちなみに、大村益次郎は後に長州軍の総司令官となった人物だが、彼とイネとの間に男女関係があったらしく、また、彼が出世コースをたどるきっかけもイネとの出会いにあったという。・・・こちらは、司馬遼太郎の「花神」で確認してほしい。
シーボルトとその足跡
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ひたすら日本にあこがれ、国籍を偽って入国したシーボルト。好奇心と探究心に突き動かされ、多くの向学心あふれる日本人学生を従え、研究や教育にはげんだ。その影響は極めて大きく、多くの優秀や人材を輩出した。そして何より、お稲という女性を残した。
シーボルトはその好奇心がたたり、国外退去となる。ここに親子数代にわたる壮大な大河ドラマが始まる。吉村昭の作品でも最長の、見ごたえのある作品である。
吉村昭の傑作
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吉村昭の著作はあらゆる資料を丹念に調べ上げ,正確を期さなければ書かないという徹底した執筆態度で貫かれています。熱情を抑えつつ終始冷徹な筆致で統一されており,どの作品も読後感が非常に良いのが特徴です。この「ふぉん しいほるとの娘」は吉川英治文学賞を受賞しており,吉村文学の中で最も長い著作で,代表作の1つと言えるでしょう。
鎖国政策下の江戸時代末期にオランダ人医官として長崎に来日したシーボルト。鳴滝塾での西洋医学の伝授において功績は大きいが,オランダ政府から別の役割(日本の情勢研究)が課せられていたことはあまり知られていない。また,シーボルトの野心家の一面も描かれており,シーボールト事件の舞台裏まで詳細に描かれていて読者を飽きさせない。
物語は長崎丸山遊郭の遊女其扇(お滝),シーボルトとの間に生まれたお稲とその娘タダの三代の女性を軸に描かれ,幕末から明治に至る大きな時代変化や庶民の暮らし,長崎の風情を巧みに絡ませながら展開していく。
久しぶりに読み応えのある本に出会い(長い長い映画を見終り,程よく疲れたという感覚でしょうか),心から感動するという体験を味わえました。