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長英逃亡〈下〉 (新潮文庫)

価格: ¥704
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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幕末を駆け抜けた長英 ついに最期を ★★★★★
 火をつけて脱獄した長英に対し、幕府はその威信をかけて壮絶な追跡を始める。その捜査網は徹底したものだが、長英はその人脈を生かし、逃亡を続ける。やや似たような描写が繰り返されるが、あくまで吉村氏の丹念な史実調査と描写にもとづくものと考えると、生々しいリアリティがある。
 逃亡先で蘭学書を訳し、その評判があまりに良いので長英が生きているとわかるというのも皮肉である。そしてついに幕府の手にかかり、最期を遂げる。あとがきによれば、その描写にも吉村氏は苦心したようである。
 彼は明治を見届けることはできなかったが、彼の足跡をたどった数々の英傑によって日本の開国、近代化は成し遂げられるのである。
歴史の中の人物を、私の前に連れてきてくれる! ★★★★☆
歴史小説は基本的にその場を見た人はいません、事実であろう資料をもとに作者が想い描いたあくまでも小説です。

それにもかかわらず、この吉村さんの描く高野 長英は魅力的人物です。若くして故郷を離れて、親族に不義理を重ねて、またその事を軽く流してみたり、勉学に才能があり、またその事を鼻にかけたり、とワガママで身勝手な側面を持ちながらも、知識を身につけた為に自国の置かれている状況を憂いて、例え牢屋の中にいる身分であってかまわないから洋書を和解(和訳する事を昔は和解《ワゲ》と言うそうです、これも私は最近知った)させてくれと頼んでみたり。矛盾に満ちているようで人間味を感じさせる人物です。その長英の牢屋への入牢から脱獄を経て死までの逃走を追う小説です。

長英の人物としての魅力があり、またその時代における不条理にめげない信念を持った姿が良かったです。そしてそれにもまして、その逃亡する長英を助ける数多くの私意の人達が魅力あふれています。長英を助ける事はすなわち自分の身を危険にさらす事で、その危険は非常に大きく、また、取り返しの付かない事なのに、助ける人達。その人達の葛藤と想いが良かった。
吉村昭の渾身の名作。優れた歴史小説であると同時にロード・ノベルでもある。 ★★★★★
江戸時代末期、幕末の直前、数奇な運命に翻弄され、獄に囚われた天才的蘭軍事学者・高野長英の獄中生活と、脱獄、その後の逃避行の状況が描かれるスケールの大きな歴史小説。

丹念な事実収集と真摯な執筆によって、現代の読者に、時代と風景と状況と知性とが明瞭に提示され、様々な意味で驚かされる。

そして、高野長英において奇跡的に成立しえた逃避行を成り立たしめたような人間関係を自らが持ち得ているか、読みながら、どう生きるかということが問いかけられる。

長英の最後、そして、長英を支援した人々の末路がさまざまに語りかける。また、故吉村昭がこの名作が成立した経緯を克明に記した後書きも読み応えがある。

熱い読後感 ★★★★★
すべてのエネルギーを賭けて生き抜いた男の生涯を、丹念な資料収集と、作者の推理・人間考察からの判断なよって書かれていて、胸打つ読後感だった。江戸時代の平安と秩序が、一方では厳しい監視と取締りや刑罰の賜物だったことは理解していたが、そんな状況下にあっても、人は法を超える、本来の人としての生き方を求めることが、強く感じられた。6年有余の逃亡生活を支えた多くの人々の、長英に託すそれぞれの思いが、作者のもっとも語りたかった部分ではないかと思う。どんな風に生きても、高野長英は時代に少し嫌われてしまった人ではなかっただろうか。その意味でも、完全燃焼の人生で救われる思いがした。