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心は孤独な数学者 (新潮文庫)

価格: ¥515
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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名著『遙かなるケンブリッジ』は、藤原正彦の感性と古武士然とした立ち居振る舞いとを明晰な文章で伝えるものだった。この数学者はどこにいても常に日本人としての誇りを失わず、それでいて盲目的な愛国者にならないだけの冷めた目を併せ持つ稀有な人である。その著者が天才数学者3人、ニュートン、ハミルトン、そしてインドの神童ラマヌジャンの生き方をたどりつつ、彼らの苦悩に満ちた日々を愛情豊かな、それでいて決して一面的にならない冷静な筆致で跡づけて見せた。形の上では3人の評伝となっているのだが、それは単に彼らの生涯と業績を描いたというものではない。著者はそれぞれの人物が生きた場所を訪れ、彼らの在りし日をしのびつつ、同時にその天才としての業績、あるいはその性格的欠陥、懊悩(おうのう)の姿を見事に読者の前に示して見せた。特にインドが生んだ天才ラマヌジャンの苦闘を描いた章は、本書の中でも最も長く、そして最も波乱に富んだ軌跡を詳細に描き出したもので、数学のもつ芸術性、美学をこれほど豊かに示す例はほとんどほかに見出せないものでありながら、それ故この天才の不遇に思わず天を仰ぐしかないのである。本書は単に天才とは何か、天才を生み出すものは何だったのかを示すにとどまらず、たぐいまれな人物伝として高い評価を与えるべきものだろう。(小林章夫)
文学として読める天才数学者の伝記 ★★★★★
 ニュートン(イギリス)、ハミルトン(アイルランド)、ラマヌジャン(インド)の3人の天才数学者の人生をとりあげた本。

 多くのレビュアーさんが記述しておられるように、単なる評伝ではなく、彼らがどのような時代のどんな環境・文化の中で生きたかについて、その空気まで伝わってくるような陰影に富んだ記述である。そしてそれは、著者自身が数学者たちにゆかりの深い土地を訪れ、住んだ家や遺品を確かめ、現地の人と話をすることでより一層身近に感じられる。

 3人3様の人物像(とくにラマヌジャンの不思議な天才性はとても興味深い)、天才たちの悩み多い人生(ラマヌジャンの人生の不安や悩みは胸に迫ります。また、ハミルトンの恋には感動します)、イギリス、アイルランド、インドという異なる環境(イギリスの圧政に苦しんだアイルランド、ヒンドゥーの厳しい掟に縛られたインドに関する記述は必読)がよく描かれており、まるで小説を読むような感動がありました。

 数学に関心のある人も、ない人も、それぞれに読む価値のある本だと思います。
凡人が天才を語る不幸 ★★☆☆☆
 稀代の天才・ラマヌジャンの生を辿った史料としては、一定の敬意に値する。
 しかし、そうした史料から勝手に天才の感情を語りだすに至るや、もはやむちゃくちゃ。
 数学が好きとか嫌いとか、そういうバカの戯言に巻き込むのは単に不快の一語。好きだから
やるわけじゃない、他にすることがないからする、ただそれだけのこと。
 そんな論理に魅入られた狂気を知らぬ凡庸な親の七光りの自称数学者ゆえにこそ、
「品格」や「武士道」どうこうと説得性の欠片もないことを臆面もなく垂れ流す。そこには
数学者の資格たる論理性の欠片もない。恥知らずとはまさにこの男を称するに相応しい。
ラマヌジャン ★★★★★
3人の数学の天才の栄光と苦悩が描かれています。

特にラマヌジャンの人生に興味が
わきました。

この本を読むまでは、こんな不思議な天才が
いたことは知りませんでした。
独自の数学感覚から次々と公式や定理を
予言し、世界を感嘆させた数学者。

数学って面白い学問なんだと改めて思いました。
3人の数学者への敬意に満ちた評伝紀行 ★★★★★
著者には「天才の栄光と挫折」という本があり、本書で採り上げる3人はそちらでも採り上げられている。特にニュートンとハミルトンに関してはほとんど同じ構成で、本書の方が若干詳しくエピソードが豊富なだけである。本書は著者が3人のゆかりの地を探訪し、そこで感じたことを記した優れた紀行文でもあるが、例えばハミルトンの章では、映画「ライアンの娘」のロケ地を訪れたことが書かれており、同映画が好きな私には著者がより近い存在に感じられる。両書とも格調の高い、それ故読み易い文章で書かれており、読みにくさは全くないので、数学嫌いの人でも、美を求めた3人の数学者の劇的な生涯の評伝として、あるいは紀行文の名作として是非一読して欲しいと思う。本書にはない写真の頁(ラマヌジャンのパスポートの写真も含む)があること、他に6人の天才達の評伝を楽しめることを考えると、ニュートンとハミルトンは重複することには目をつぶって、「天才の栄光と挫折」と本書の両方を読むことを私は薦める。

本書では全体の約6割を占めるラマヌジャンの章が圧巻である。ラマヌジャンのとてつもない天才ぶりと薄幸の、ごく短期間だけ栄光に包まれた短い生涯の紹介はもちろん、彼を生んだ南インドを著者が実際に旅し、インドの不衛生さ・混乱に辟易としながらも、インドの社会や歴史(特に英国との関係)に思いをはせ、ラマヌジャンゆかりの地で感慨にふけり、関係者と会い、彼の天才もまた精神的なものを尊重するバラモンという出自、寺院に代表される美的なものの多い風土に育まれたものであることを発見するのは感動的である。数学というすぐには役に立たないが故に、研究活動にあたっては美的感覚という人間的な資質が数学者には要求され指針となることをある意味立証する、3人の天才の足跡を辿る旅の貴重な記録として本書を高く評価したい。
単なる伝記にとどまらず、数学の素晴らしさを描きだしている。 ★★★★☆
 「この本は、ニュートン・ハミルトン・ラマヌジャンという天才数学者たちの伝記である」と言ってしまうと不正確であろう。三人の天才を通じて数学の世界を描きだそうとしているように思う。
 ニュートンやハミルトンの部分を読めば、数学者が物理学や天文学など実学の理論的なバックボーンを担っていたことに気づき、そのスケールの大きさに感動する。
 また、数学とはあらゆる雑多な事象を限りなくシンプルに抽象化していく学問であることを読者は理解し、「数学=美の世界」を強く意識する。

 その一方、三人の数学者の生まれ育った土地を訪ね、その様子も交えながら書き進めていくことで、読み手の興味をうまくかきたてている。単なる伝記であったならば、こうはいかなかっただろう。
 「イギリス人の保守性を考える時、いつも胸をよぎるのは彼等の独創性である」と筆者は書いているが、この表現に限らず、イギリス・アイルランド・インドの風土やその土地の人たちを通じて、天才数学者たちの考え方まで覗けたような気にさせてくれる。