秀逸なる「蛇足編」…
★★★★☆
「鋼鉄の海嘯」シリーズは、前巻の「台湾沖決戦」で対米辛勝を勝ち取り、作者の「敗北主義者」の汚名返上で完結?
と思っていました。
ただ、ナチスからの技術導入設定がかなり無理というかムチャで、BMW801という、精密巧緻極まりない「コマ
ンドゲラート」(メカニカル・コンピュータ)を有するエンジンをライセンス生産するとか、「勝たせんかな」の
ご都合設定が増えて(といっても、美少女萌え司令官とか多胴空母、なんてトンデモよりはマシですが)きて、そろ
そろ許容限界かな? と思っていたら、文字通りの「君子豹変」!!
で今度はドーバー海峡で対独海戦!! ってマジですかぁ? って、ハッキリ言ってコケましたね、読むまでは。
ところが、読んでみると、コレはコレで面白い。ナチス陸軍の機甲戦の強さとか、日本の技術供与で独Uボートが
酸素魚雷を実用化していて逆にしっぺ返し食らったり。この一巻に関する限り、スピード感も迫力もあって一気に
読めます。特に、「ザンギエフ中佐」を軸とした人間模様も一本「筋が通っている」印象があり、好印象です。
リヴァプール工廠での「比叡・榛名」の修理依頼に絡んだエピソードも秀逸です。
ただ、裏切り参戦の理由として、山本五十六の新英米派のヒトラー危険視はともかく、「菊の御紋章」を持ち出した
のは完全に「陸式の発想」でドウもいただけません。あと、ドーバー海峡海戦でシャルンホルスト級が驚異的に粘る
のは、おそらく筆者の「お気に入り」(“浅間”シリーズでも大活躍)だからでしょうが、何故かUボートの二次
攻撃がなかったりとか。まだまだツッコミどころが多いです。
そして印象的な、修理中のリヴァプール工廠の上空をB29が大陸反攻に向かうシーンで本巻は今度こそ終了、と
思いきや、「欧州開放編に続く」って、ヲイヲイ、ですよ。なんか、「レッドサン・ブラッククロス」の翻案的な
既視感(はっきり言ってあまり気分がよろしくない)を感じてしまいました。
表紙に描かれたMe262が文中に最後まで登場しなかったのはソウいうことか、と思いつつ、「秀逸なる蛇足」
として星4つにしておきます。ただ次巻は結末が見えているだけに、どこまで読ませてくれるか…
(まさか、ヒトラー暗殺、って使い古しのオチ設定でないことダケは切に希望しつつ)