中国文化の象徴のような文化財の宝庫 台湾観光のお供に
★★★★☆
台湾一番の観光スポットである台北国立故宮博物院が所蔵する美術工芸品や他の作品をあますところなく紹介している書籍です。ハンディなサイズですが、収蔵品の素晴らしさを堪能できるようになっています。掲載の美術品は人類皆の共通の至宝といった感銘を受けました。中国王朝の巨大な富と権力の絶大さに驚き、中国人の技術の卓越さに圧倒される思いです。
第1章で中国絵画の絶頂期と言われる北宋の絵画について板倉聖哲氏が平易な文章で解説を加えています。一見取っつきにくそうな水墨画を観賞する際のポイントを門外漢でも理解しやすく説明してありました。17ページの水墨画の発展過程の図解も分かりやすい内容でした。
第2章は「書の神髄を味わうために」ということで、より取っつきにくい書の魅力を同じく板倉氏が解説しています。コラムも興味をひくものでした。
第3章は「汝窯の秘密」と題する伊藤郁太郎氏の文で説明があり、北宋時代の青磁の完璧な保存状態を紹介し、その美しい作品の質の高さを示していました。
出会えたら幸せベスト30という「名品観賞ガイド」も観賞の際の参考になるでしょう。90ページの豚の角煮のような天然石を用いた「肉形石」はユーモア溢れる展示品ですし、次のページの清朝の「翠玉白菜」も美しく、清の瑾妃がお嫁入り道具として持参されたものです。
93から95ページにかけては神業と思われる彫刻「象牙透彫四段堤食籠」が丁寧に紹介してありました。薄い弁当箱状の象牙の透かし彫り細工の際立った精巧さは素晴らしく、感動を通り越し不思議な感覚に襲われるでしょう。
旅行雑誌のノリ
★★★★☆
「るるぶ」のような旅行雑誌の、台北故宮博物院特集のようなノリの本です。もともと、2007年春の大観=北宋書画展にちなんだ芸術新潮の特集(2007年1月号)を膨らませたものです。ただ、もと大和文華館の宋元画が好きな板倉 聖哲さん、安宅コレクションの収集に関わり大阪市立東洋当時美術館の館長になった伊藤 郁太郎さんが関わっていますので、なかなか個性的な本になっています。
伊藤さんの「汝窯の秘密」は真面目で真剣な口調で、前後の気楽なノリの文章からはかなり浮いています。でもそのため、この本で一番読ませる部分になっています。
一方、板倉さんの文章と対談はかなり軽い感じですが、これは編集者の筆がそうとう入っているのではないかと思います。そのためか、特に「書」の部分にはケアレスミスが多く、オヤオヤと感じないわけにはいきません。また、78−97頁の器物篇では、どうかなあ?と思いたくなる選択・文章もあります。まあ、しかしこれは「私はそうは思いませんな」とか大きくかまえて楽しんで読むものでしょう。あまりカリカリ読む文章じゃありません。文責=編集部だとおもいますしね。
故宮博物院の新院長 周女史のインタビューもありますし、写真の質は非常に良いと思います。めったにみられない地下倉庫の写真もありますしね。また屋台やレストラン、茶藝館の話まであって、まさに「旅」や「るるぶ」です。
なかなか楽しい本であることは確かです。
要領よく、分かりやすく
★★★★☆
本書は、台北にある故宮博物院の魅力を明かす本です。
中心は第一章、第二章で紹介される名品です。
第一章では主に北宋時代の書画と磁器に焦点をあてています。
書画はその時代に至るまでの流れを簡略に説明しているのが
優れています。汝窯についての最新の調査結果も記してあるのも
大いに参考になることでしょう。
第二章は、主に北宋時代以降の文物が採り上げられています。
その性質上、長い期間の展示は難しい書画そして、展示の入れ替え
故に見られたら運がよいという文物を紹介しています。
対談形式で記されているので読みやすいはずです。
より後の章は、文物が如何に疎開していったか大分詳しく書いています。
そして故宮博物院の周辺でも魅力的な博物館、及び観光地を紹介しています。
この一冊は、美しい写真が多く、鑑賞方法を記しているので、単に写真を
みて楽しむ以上の価値がある本です。また、本も大きくないので携帯に
便利であり文体の読みやすさから考えてもお勧めであるといいたいのです。
しかしながら、北宋時代以降の文物に偏っていて、例えば唐の時代の唐三彩
についての言及はありません。青銅器に対する記述も少なめです。磁器に
関する記述も汝窯以外は控えめです。
より広い範囲での中国の文物を眺めるということを考えるとお勧めできるか
分かりません。しかし、中国の文物のエッセンスを写真と文章と共に伝え、
気軽に読めるサイズの本に収めた点は評価できます。