しかしながら、内容的には、読者の目を惹くようなものも多いのではないでしょうか?
トルコにおけるスルタンのハーレムについて、カサノヴァについて、ダ・ヴィンチについてなどなど。
また、ヴェネツィア共和国の外交官・大使による(本国への)報告書が大きく取り上げられているのが、本書の特徴・醍醐味です。
著者によると、これらの内容は、どんな内容であれ、非常に冷静かつ客観的に書かれており、
マス・メディアの無かった当時の風俗を知るのには、非常に貴重な資料だそうです。
歴史の表舞台に出てこない歴史を、著者の視点を通して読める、いいエッセー集だと思います。
特におもしろかったのは、トルコのハレムの話(トルコはヴェネツィアの宿敵)。”官能的”の一言では片づけられない、ハレムの知られざる実態と、その中でしたたかに生き抜いた女たちの姿が興味深い。これをテーマにした歴史小説があれば読んでみたいのだが。
世界最古の叙事詩「オデュッセイア」は、実は朝帰り亭主が女房に言い訳するための壮大なホラ話だった…という説もケッサク。軽い文体の中に、男性心理への深い洞察が潜んでいる。
アガサ㡊クリスティーが40歳の時の写真しか載せなかった…という話を皮切りに、ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスが、長生きしたにもかかわらず、20代の若い時の彫像ばかり作らせ、しかも美化修正してしまった…という、容貌についての話にも大笑い。
などなど、読みやすい文章で気軽に楽しめるが、エスプリと人間洞察に富んだ、とてもおもしろいエッセイである。お試しあれ。
この本自体が、特に題材、時代を限定したものでないこともあり、
古代ローマ、コンスタンティノープルから、近代のヴェネツィアまでを駆け足で、いったりきたり散策できる楽しみと、次はこの本を(この時代・都市・人物)を読んでみようと思わせる、入り口になりました。