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愛の年代記 (新潮文庫)

価格: ¥460
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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   イタリアの中世末期からルネサンス期における、さまざまな「愛」のかたちを描き出した9編を収めた短編集である。『ローマ人の物語』や『海の都の物語』などで、イタリア史の魅力をあますところなく書きつづっている著者の初期作品だ。

   長く日陰者と侮蔑されながらひとりの男を愛し続け、ついには大公妃になった女の話(「大公妃ビアンカ・カペッロの回想録」)、異教徒の海賊とのあいだの秘めた恋物語(「エメラルド色の海」)、男しかその職につけないというローマ法王の歴史の中に、じつは女の法王がいたという話(「女法王ジョヴァンナ」)など、これらの短編は、じつは史実だけなく偽古文書や民間伝承などをもヒントにして創られた歴史フィクションなのである。

   タイトルが示しているように、この本のテーマは「愛」である。あるいは一歩踏み込んで「性愛」といってもいい。しかし、それは堕落や淫靡(いんび)や退廃といったマイナスなイメージを意味するものではない。作品の背景となった時代のイタリアは、ルネッサンスの華やかな文化が花開いた一方で、ベネチアやフィレンツェ、マントヴァなど大小の国々が乱立し抗争が絶えなかった。政治的、人間的な関係が錯綜していた時代は、女たちも自分自身の生き方を極めなければ生きていけない時代でもあったのだ。

   著者は、そんな彼女たちを傍観者として眺めているのではなく、その生き方や考え方に共感している。ここに描かれた「愛」とは、どれも自らの信ずる生き方を真っ当した女たちの、真摯な姿なのである。(文月 達)

著者の大作シリーズを補完する好短編集 ★★★★★
著者の大作シリーズはどうしても男が主人公の話になる。著者は基本的に惚れた男をとことん書くのが得意な作家だと私は思っているが、本作はそういった大作シリーズからこぼれおちた珠玉の短編を収めており、大好きな本だ。

「ローマ亡き後の地中海世界」シリーズに登場した海賊ウルグ・アイに関する1エピソードである「エメラルドの海」、また「海の都の物語」の一つの時代の背景である「ヴェネツィアの女」がそのような「こぼれ話」だ。

著者は決して女性を主人公にした愛の物語が不得手ではないことを示す優れた短編集で、イタリアの様々な時代の香気を楽しめる、お薦めの本。

それにしても、女法王は本当にいたのだろうか。伝説か史実かわからない歴史の迷路にたたずんでみるのも一興だろう。
全編映画のような美しい短編集 ★★★★★
小学生の時に古本屋でこの本を見つけてから四半世紀。未だに繰り返し読んでいる本です。
トルコの海賊と貴婦人の秘められた恋の「エメラルド色の海」、
これは今まで読んだ小説の中でも一番美しいロマンスです。
本来出会うはずのない海賊と貴婦人がほんの偶然のような出来事でめぐり合い
一瞬のような出合いの相手をお互いに想い合う・・・たった一度の出合いだけで
二度と会えないことがわかっているのに思い続ける恋。
こんなに切なくとも静かで燃える恋はあるでしょうか・・・。

もう読んでいるだけでその場の情景がまざまざと目に浮ぶ本です。
中世からルネサンス時代のイタリア。
宝石箱のようなヴェネティア、ジュリオが踊りまわった舞踏会の夜、
ジュリアが覗いた窓の外、ジョヴァンナが読書した木陰、
政治的背景や社会も絡めて絡み合う男女の恋。
男の歴史と社会の中で精一杯恋に生きた女の物語です。
圧巻! 硬質な文章から漏れる官能 ★★★★★
母の書棚から見つけた1冊の本は今から30年近くも前に書かれたもので、たしかに大仰なタイトルが時代を感じさせる。しかし、中世からルネサンス期、ヴェネツィアやミラノといった時代の雅を極めた都市を舞台に花開いた恋の物語の数々はいまなお新鮮だ。当時、恋はときに戯れにしかけられた。豪商の奥方がうぶな青年を寝室に引きこむ。彼女にとってはほんの火遊びのつもりでも、青年にとっては一世一代の恋で、彼は嫉妬に苦しめられる。また当時、恋はときに身を滅ぼすものだった。姦通罪は重罪のひとつで、それを破った男女には無惨な死が与えられることもあった。そのことを知っていてなお抑えられない恋情は匂いたつほど甘いものだが、その情熱とは対照的に恋模様は硬質な筆致でつづられる。抑えた文章のあいだからほとばしる官能。その後も星の数ほど生み出されてきたラブストーリーの多くが、まるでこの領域に達していないことを思い知らされる。
愛の不思議さ、恋の恐ろしさ ★★★★★
中世からルネッサンス時代の女性たちの物語。
強い愛もあれば破滅的な恋もあり、
一言で表現するなら「恋はおそろしい」だと思う。
当時の歴史背景をからめて物語をねりあげていて、
読みやすいし、雰囲気に入っていきやすい。

海賊に恋をした宮廷の女性の物語「エメラルド色の海」などは、
淡く切ない恋物語であるとともに
地中海沿岸やイタリア半島の各国が置かれている状況と
それぞれの危機意識の違いが、背景として描かれている。
「女法王ジョヴァンナ」も、
漫画的とも言えるような展開で
いつのまにか法王になってしまった女性をコミカルに描写しながら、
当時のカトリック教会の事情もきちんと説明される。

ただ、桐生操という作家の「イタリア残酷物語」という
全く同じ内容の作品が存在するので、
どういうことなのだろうかというのが、私の長年の疑問である。

愛の高揚と破滅 ★★★★★
イタリア中世~ルネサンス期の、愛の物語を短篇集のようにして集めた本。
史実などもネタにしているだけあって、どこからどこまでが本当なのか、わか
らなくなる。(勿論、たとえ史実だけを書こうと試みても同様の結果になるの
だが)
近頃ローマ人の物語で知られる塩野さんの書く文は面白くて読みやすい。本書

では、史料ももとにしながら、激しい愛の物語を、まるでその場で見てきたか
のように、或いは同時代に生活していたかのように、リアルに描き出してい
る。かなり官能的な部分もあるので、一定年齢以上のかたにおすすめ。
大抵は、許されぬ愛と、そこからくる破滅、或いは苦難の多い恋愛であって、

お伽話タイプの恋愛物語ではない。姦通した妻は、さっさと処刑される。そう
いう時代だからそうなのだが、時にひどく痛ましい。この本は、文字通り愛に
身を焦がしたイタリアの男女たちの絵巻である。