寂しさを追求した秀作
★★★★☆
まさに題名どおり寂しさの極みに突き落とされる思いのする作品。曽野綾子は親子の問題を追究してきた作家だが、ここでも極めて現代的な親子関係を心に染入るような冷たさと寂しさの中で何の妥協もなく表現しつくしている。受験期を向かえた息子から執拗に拒絶され貶められ、夫にも「妻の苦悩など瑣末なもの」と相手にされない女の苦しさは、多くの母親達の共感を呼ぶであろう。彼女に残されたものはホテル社長夫人としての経済的社会的豊かさと、絶望しても生きるしかない人としての定めであった。文末の語尾が余りにもワンパターンで文章にかなり難があるものの、絶望からの出発する人間の姿をここまで突き詰めて描いた本作には深く心揺さぶられる。