骨董と私
★★★☆☆
奥本大三郎さんが、毎月、一軒の骨董屋を訪ね、エッセイとして『中央公論』に連載したもの。
取り上げられているのは、三渓堂、壺中居、飯田好日堂、澄心堂などの名店ばかり。店の主人にインタビューさせてもらい、これはという名品を扱ったエピソードを聞き出し、あるいは修業時代の思い出を語ってもらう。かたわら、店の品を色々と見せてもらう。
骨董好きからしたら、夢のような体験である。
奥本さんは本来は骨董とは何の関係もない人物。しかし、蝶のコレクションで有名で、「コレクター」という点ではまったのだろう。最初はぎこちないものの、徐々にはまりこみ、ユーモアのある文章へとまとめている。
全体として、やや踏み込みが甘くて物足りないものの、骨董ファンでも奥本ファンでも楽しめる一冊と思う。
コレクターの視点
★★★★☆
著者は昆虫標本のコレクターなので、コレクターと業者、輸出入規制の問題など独特の視点をもっているところが楽しい。単なる門外漢の訪問記では味わえないところがある。
日本と中国の陶磁器、仏教美術、古民具、オリエント、茶道具、書画、文学者の色紙など、広範囲にわたる訪問記は、古美術の蒐集家には無理である。コレクターはたいてい一分野に専門化していて他へは行きたがらないものだ。取りあげていないのは刀剣ぐらいだろうか。私は茶道具の店は縁がないので、特に興味深かった。また、アフガンでの盗掘についてのマスコミの捏造も面白かった。間違いも少々あるが、素人の訪問記というスタンスだから記述を鵜呑みにするべきではないし、そう多くはない。
著者は硯も蒐集しているらしいが、硯の鑑識・年代観は未だ確立していない分野なので、あくまでも「訪問記」として読んだほうがいいように思った。
日本人と美術品
★★★★☆
著者は「自分は素人」であると述べていますが、もちろん著者は、
フランス文学者であり、昆虫への造詣の深さは言うに及ばず、
また、硯のコレクターでもある、という意味で、一大教養人です。
また達意の文章家であることも有名。
そのことが、本書の骨董店主たちへのインタビューに、深みを持たせています。
青山二郎や小林秀雄、川端といった骨董収集家から、
ルーシー・リーなど現代作家まで、いろいろな逸話が登場するので、骨董ファンのためのエピソード集としても楽しめます。
また、骨董作品そのものではなく、
戦後から、高度成長、バブルを経て現代に至る、骨董店の経営、
その背後にある、日本人の美術品への意識の変遷について、
どの店主たちも独自の洞察をしており、
「日本人と美術」について考えるための重要な副読本とも、
位置づけられると思います。