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最後の家族 (幻冬舎文庫)

価格: ¥600
カテゴリ: 文庫
ブランド: 幻冬舎
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   リストラにおびえる父親・秀吉、若い大工と密会を重ねる母親・昭子、引きこもりの長男・秀樹、10歳年上の元引きこもりの男と交際する長女・知美。ある日、向かいの家で男に髪をつかまれて引きずられる女を目にした秀樹は、それが「ドメスティック・バイオレンス(DV)」だと知り、いつしか女を救うことを夢想しはじめるが…。

   内山家は現代家族が抱えるさまざまな問題に直面している。しかし、「救う・救われるという人間関係を疑うところから出発している」と語る村上は、内山家に安易に「救い」の手を差しのべたりはしない。「家族は楽しく食事しなければならない」「親は子供に期待する」といった現代家族を漠然と包みこんでいる幻想をはぎ取られた内山家は、一気に崩壊へと突き進む。にもかかわらず、読後感がさわやかに感じられるのは、多くの困難を引きずりながらも徐々に自立していく内山家の人々が、家族の崩壊と反比例するかのように生き生きとしてくるからだ。特に秀樹が、女を救おうとする自分とDV加害者とが「似ている」ことに気づき、涙するシーンは印象的だ。

   村上は2000年に発表した『希望の国のエクソダス』で日本経済や教育を論じ、主人公の中学生に「この国には希望だけがない」と語らせた。そうした絶望感を経て書かれた本書には「救い」はないが「希望」の光は見て取れる。読み手は、家族それぞれの視点で同じシーンを描くという手法で構成されるこの物語で、登場人物の誰かに自己を投影し、自分にとっての「希望」を見いだすことができるに違いない。(中島正敏)