これは韓ドラだ!
★★★★★
孤児オリバーに襲い掛かる不幸の連鎖、善なる人のもとに引き取られ、幸せになれるかと思われつつも再び悪の仲間に捕まり悪事に荷担させられそうになる。それでも純真さと善なる性質を失わないけなげなオリバー。これは「韓ドラ」に代表される通俗的な面白さに満ちた物語である。オリバーが不幸になればなるほど、読者はその世界に引きずり込まれずにはおられないのだ。
ただ、本文庫の訳文はかなり直訳調で、個人的にはそういうのが好みなのでよいのだが、最近の「新訳文庫」の読みやすい訳文に慣れた人だととっつきにくいところもあるだろう。また、現在では差別的表現とされている用語がいたるところに使用されているので、それらに不快感をもよおす方は他の翻訳で読まれることをお勧めする。
ディケンズ
★★★★★
様々な顔を持っていますが、ストーリーテーラーとしてのディケンズは読み手を裏切りません。うまい。
英語圏の思想や行動の勉強にもなります。本作は「リトルドリット」ほど長すぎず読み易いボリュームになっています。孤児オリバーの遍歴を主軸に脇役の書き割が絶妙できっちり社会背景や世俗を織り込み、少年の成長物語として大団円に収めつつもほろ苦さも忘れない。
構成と伏線、機微まで王道で現代小説なら何本か書けそうな充実度。素材や題材なんてパーツの問題ではなく基礎体力。
昔はよかったなんてウソだ!
★★★★★
今まで読みたいと思っていて映画化を機に一気に読んだ。どんなに悲惨で汚辱にまみれていても、キリスト教的純真さを失わなければ幸福を得る、というテーマが一時代も二時代も昔の物語に感じたが、構造的な貧困の差が決定的な現代にあってはむしろ悪役、敵役がいかにも魅力的だ。孤児たちを食い物にするバンブル氏や、典型的なユダヤ人の悪党フェイギン、凶暴なサイクスたちのリアル感、ディティールは、彼らの住む貧民窟の描写と相まって非常に活き活きとして印象的だ。保護者は次々と死に、いい人間は少数しか登場しない。今の子供が読んだら本当にあった恐ろしい世界であるはずだ。
今もある「貧富の差」
★★★★☆
ディケンズは、産業革命の広がる中で貧富の差が激しくなった時代を見事に描写しています。富める者は、その自己弁護のために救貧法を制定しています。一方で、困窮層は食うものも満足にない状態にあります。そんな社会を舞台に、彼は、貧しさにも優しさを失わないオリバーを登場させます。
今から考えれば、善悪がはっきりし過ぎていると言う面はありますが、そうした社会状況を見事に風刺した作品です。
何故今「オリバー・ツイスト」かと言うことについては、日本でも「下流社会」と言う本がベスト・セラーになっているように、当時とは違った意味で、貧富の差が広がり、新たな「下流社会」を作りつつあるということが影響しているのでしょうか。