光野さんの本の中に、シャトゥーシュという、やわらかくて指輪も通り抜ける、高級なはおりものが出てきますが、これはチベット高原に棲む希少な野生生物の、チルーという動物が密猟され、乱獲されてつくられるものなのです。チルーは鹿に似た、牛科の動物ですが、このシャトゥーシュをつくるために、もともと100万頭いたのが、7万頭まで減少したといわれています。アメリカや日本でも、取引は禁止されています。シャトゥーシュは、たくさんのチルーが殺されて、つくられたものなのです。
毛皮のコートについても、光野さんは「エコロジー運動がいかに盛んになっても、イタリアから毛皮は消えないだろう」と書いておられましたが、毛皮は、エコロジーという問題ではないと思います。毛皮のコートがデパートで何百何千と見られますが、そのためにきつねや、うさぎやミンクが、狭い檻の中で一生飼育され、ひどい殺され方をして、毛皮が作られるのです。いまや、決して暮らしのために猟師さんが一頭ずつ獲ってつくるのでは、ないのです。毛皮の生産のための工場があり、そこで何万頭という動物が一生、日に当たることも、走りまわることもなく、電気ショックを与えられて殺され、毛皮のコートや洋服が、大量生産されるのです。
光野さんの本はいつもとても素敵で、彼女の優しさがあふれているようで私も愛読していますが、こういう問題が裏にあることも、わかっていただけたらと思います。
ルイーゼ・リンザー著「波紋」の中に、インドから戻った祖父から魔法のような布をもらう話がある。肩をくるめる程大きなスカーフが、指輪の間をするする通る、という。
その布がインドでも最高級の「シャートゥース」という織地だとわかった。
「波紋」は子供の頃の愛読書であり、その中に登場するアイテムが実存するものと知り、はさんだきり忘れていた押し葉を本の間に見つけたような、やわらかい気分になった。
光野さん自身の体験に基づいたファッション論は、どれをとっても真実ばかり。昔愛読していた今はなきmc sisterを読んでいるような気分になりました。
自分のスタイルやファッションに疑問を持っている人は、無理に雑誌を何冊も買ってしまうより、まず、この文庫を手に取ってみて下さい。
読み終わった後には自分のファッションの方向性を見いだしているはずです。
誰でもない、自分にとっての処方箋。
この本を読んだら、さっそく行動したくなる。