「省益あって国益なし」
★★★★★
湾岸戦争において130億ドルという巨額の財政支援を行いながらも、世界からその対応を非難され続け、クウェートの感謝国リストにも挙がらなかった我が国日本。この「外交敗戦」を膨大な資料と証言を元に検証する、ジャーナリズムかくあれりとも言うべき、読み応えのある一冊。
「省益あって国益なし」。大蔵省、外務省、運輸省の間で繰り広げられた省庁間の争いに起因する政策意思決定の遅さと二元外交体制が、日本を国際社会の隅に追い詰めていく様が詳細に描かれている。また、平和憲法に縛られ、軍事的なところと紙一重となる国際協力を求められる局面で機能停止に陥る日本が抱えるジレンマについてもよく考えさせられる作品である。
他にも、在イラク・クウェート日本大使館員とイラクに人質に取られた民間人の間で行われた通信等、危機下における人々の奮戦が綴られている。闇夜にミサイルが飛ぶシーンばかりが放映された湾岸戦争の現地ではこのようなことがあったのかと思わせられる記述も多い。まさに「事実は小説よりも奇なり」である。
戦後成長をリードしてきた日本が誇る官僚機構が持つ弱点、国際外交の場に置いて一国を窮地に追い込む二元外交の危険性、日本が誇る平和憲法に縛られる安全保障問題、有事危機下のリーダーシップ等のいずれかにでも興味があれば、読んで間違いない一冊だと思う。
縦割り外交の問題点を衝いた名作
★★★★★
湾岸戦争が起こった当時、私はまだ小学生だった。湾岸で戦争が起こったということは当時ニュースで知っており、湾岸戦争のあらましについては後に様々な書籍を通して大体のことを理解したつもりになっていたが、本書を読んで湾岸戦争をめぐってここまで日本が迷走していたことを初めて知った。特に秀逸なのが、多国籍軍への資金援助についての日米蔵相会談が外務省を除外するという「ブラックボックス」の中で行われてしまい、その結果、円建てで支払うのか、米国以外の国家にも資金を提供するのかという論点がなおざりにされたことを明らかにしている点である。結局、円安により日本の支援額が目減りしてしまい、それを補填するために日本は追加支援を打ち出さざるをえなくなってしまう。日本は国民一人当たり1万円の税金を差し出すという莫大な経済支援を行うも、国際社会では評価されずに終わってしまう。日本外交の迷走のハイライトとして、上記の外務省と大蔵省の対立が挙げられるが、その他にも外務省と運輸省、防衛庁の間の連携の悪さも本書で指摘されている。
また、筆者は当時NHKの記者だっただけあり、情報(インテリジェンス)の流れに非常に敏感である。筆者は最近はインテリジェンスを前面に売り出しているが、それだけあってなかなか面白い記述が多い。特にイランでの日本の情報活動が米国で高く評価されていたというのは重要な指摘のように思われる。
筆者には、今後はインテリジェンスのセンスを生かした本書のようなジャーナリスティックな作品を発表していただきたいものである。
湾岸危機における日本の失策
★★★★☆
NHKの記者としてワシントン支局に勤めた手嶋氏による、ノンフィクション小説。湾岸危機から湾岸戦争にかけて、アメリカおよび日本での政策決定の様子が詳らかに描写されている。
2009年の現在までに、湾岸危機における日本の失策に関しては多くの論評が出ているし、また研究も進められてきた。しかし、十数年経った今でも、本書の中で指摘された当時の日本が抱えていた問題――省庁間対立、政治家による官僚指導力の欠如、無責任な野党、支柱となる国策の不在、原則論に迷走して実質的議論のできない国会―― これらは、どれだけ改善されたのだろうか。01年のアフガン戦争、03年のイラク戦争における日本の対応を鑑みるために、90・91年の日本外交を本書で確認しておくのは、悪くない。
本書の構成は、湾岸危機における日本人の人質の様子、開戦にいたるまでの経緯、米国から日本への支援要請、日本国内での対応策の取りまとめ、援助金の支出額と運用をめぐる開戦後のやり取りがメインとなっている。本書でも、戦争遂行の経緯や軍事作戦に関しては、ほとんど触れられていないというのが、日本外交でタッチできる領域の限界を表しているように感じられた。
日本人の外交とは
★★★★★
1兆6千億という巨額の資金提供をしたアメリカが湾岸戦争に勝利しても、日本は何一つ得られなかった。
この歴史的な敗戦を明らかにしたことに本書の意義があり、これ以上の類書はない。
取材源が偏っているといった印象はあるものの、本書の価値が減るものではないだろう。
「日本の外交力」が低いとはかねてから言われており、国民一般も薄々そのことに気づいている。
ODA等、世界中に金をばらまきながら、北朝鮮、米国、中国といった国との交渉で優位に立った気配を微塵も感じないのはなぜか。
外務省の組織や外交官の育成方法を非難するのは簡単である。外務省の幾多の失態に憤りつつも、「お金をだせばすむ」「見てみぬフリ」「強く言われると弱い」といった、日本外交の弱点をそれなりに理解できてしまうのは、それが私達日本人が広く持っている心性の表れであるからに他ならず、日本の外交は日本人の力そのものだという視点は忘れてはならない。
テレビ出身でありながら、著者の文章力も並外れていて、スパイ小説のようなテンポで一気に読めるので、エンターテイメントとしても秀逸な日本外交の貴重な記録である。
敗戦のプロセス
★★★★★
湾岸戦争において巨額の拠出をしたこと。
そしてクウェートが謝意を表明した国に
日本が含まれていなかったこと。
結果として、日本の貢献が実を結ばなかった
ということは知っていたが、本書には
なぜ実を結ばなかったかというプロセスが
綿密な取材に基づいて構成されている。
国民は主権者であるにもかかわらず、
通常このような情報に触れることはない。
敗戦のプロセスを詳細に知ることができる
本書は貴重であり、一読をおすすめしたい。