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企業ドメインの戦略論―構想の大きな会社とは (中公新書)

価格: ¥1
カテゴリ: 新書
ブランド: 中央公論社
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事業領域の捉え方 ★★★☆☆
企業ドメインと聞いてまず思い浮かべるのは、今の時代なら、企業が取得したインターネット上の占有領域のことでしょう。この本の場合は企業の事業領域です。つまり市場、技術、製品等の領域であり、現在ある姿と将来目指す方向を合わせたものです。

Theodore Levitt はMarketing Myopia で、事業領域の捉え方の重要性を説き、アメリカの鉄道会社の失敗は自社の事業を「鉄道」ではなく「移送」と捉えなかったこと、映画産業の失敗は「映画」ではなく「娯楽」と捉えなかったこととしています。鉄道が貴社は鉄道そのものが好きだった。映画会社は映画そのものが好きだった。日本でもそういう企業は多いと思いますが、経営者の目から見たらいけないことなのでしょう。

この本はその考え方に小改良を試みています。事業領域を事業空間の中だけでなく、時間、意味という第二、第三の座標軸でも議論しようというものです。最後の「意味」は「意義」と言い換えたほうが分りやすいかもしれません。なお、著者はこのアイデアを『アイデンティティの心理学』から得たと書いています。

この改良が成功しているかと問われると、素直な感想を書けば、それほどの切れ味は感じられませんでした。元の Levitt の考え方でも十分説明可能と思いました。日本の研究者ならではのアメリカとは違う独創的な分析を期待したのですが、結局はアメリカの学説の小改良の試みで終わってしまっているのが残念です。

日本の事例がたくさん紹介されていて Levitt の説に従って分析しています。その事例と分析は興味深いと思います。ですが、著者の学生たちには、学んだ知識を使って分析を行なうのではなく、理系の学生たちがしているように、それを乗り越えて新しいものを生み出す意気込みを持ってほしかったと思います。
成長戦略に向けて ★★★★☆
「あなたの会社は社会の中でどのような価値を提供するのですか?」

T.レビットのいうマーケティング・マイオピアに嵌らず、広い視点でサービスを提供する
戦略を構築するには、単純に考えればこの質問に尽きると思う。

 ■輸送会社 → 人・モノを運ぶだけではない。流通、交通というマクロで考える
 ■メーカー  → 製品を提供するだけではない。製品を使うことで得る生活の便利さ
            を考える
 ■旅行会社 → 旅行を企画するだけではない。良い時間、良い思い出作りを考える

若干事業概念を広げて考えればこのようなことが言えると思うが、さらにこれを広げて
考えなくてはいけない時代である。
内需・外需の区分がなくなりつつある昨今にとって、企業の成長戦略を描くには、国際
社会の中での自らの位置付けを考えるには読んでおくべき書ではないか。

すばらしい本 ★★★★★
ドメインという切り口で企業の経営、特に組織的視点から論じられた秀逸な本。具体的な事例も多く、日米企業の比較や変化への適応など多角的にドメインが論じられている。ドメインの再構築の事例は興味深く、なるほどと思わせるものだった。
ドメインの必要性について? ★★☆☆☆
ドメインの定義の方法や進化過程は様々なものがあり、企業の独自性や社会環境、経済の発展段階、企業とユーザーの関わり、経営者と従業員の関わり、取り巻く企業等々によって、適切なものは変わってくる。従業員の質や社風等を考えただけでも、数限りない設定が必要になり、それらを組み合わせると無限のドメイン定義が存在することになる。
無限だからといって、設定することが無意味なわけではなく、企業としてのベクトルがあわなければ前進する推進力は生まれない。ベクトルを合わせるにも最高の力が発揮されるようにしなければならないし、競合が存在するのであればその相手に勝たなければならない。
経営者としては、社会、自社、競合相手、協力者、従業員、ユーザーを観察して、常に柔軟に対応できる準備をしておかなければならない。柔軟な対応をするといっても、次から次に変化していたのでは、浸透することもないので、中長期的な先見性が必要とされる。
また、自分からの発信だけを信ずるのではなく、周りから生まれてくるものを素直に受け入れるゆとりもなければならない。
自社のドメインをいろいろな角度から確認してみると、十分検討されたものなのか分からないし、そのような目で見たこともなかった。正しい、間違っているかは別にして、点検をしてみる価値があるように感じる。
それから、本書を批判的に見ると、結果をいかにも成功、失敗と論じることは出来るが、答えのない議論は必要なのかともいえるのではないか。
企業ドメインを考える際の良書 ★★★★★
アメリカの鉄道会社が衰退してしまったのは、自らの事業領域を「輸送事業」ではなく「鉄道事業」ととらえてしまったことが原因だ。こういう話が戦略やマーケティング関連の本によく載っています。(これはレビットの論文で初めて言われたことのようです。『T.レビット マーケティング論』にはそのことが載っているみたい)

この話をしなくても、日頃から感覚的に「あの会社はスケールが大きい経営をしている」というようなことを思ったりしています。

この「事業領域」や「経営のスケール」に相当するのが、本書で取り上げられている「ドメイン」になります。

本書では、企業のドメインを「空間の広がり」「時間の広がり」「意味の広がり」の3つの次元からとらえています。さらに、ドメインは静的なものではなく、時間と共に変化していく動的なものとしてとらえ、様々な視点を提供しています。

様々な視点のうち、特にドメインの意味に焦点を当てた議論はとても参考になりました。例えば、ドメインを経営者が定義すれば済むのではなく、その後、環境側(組織の構成員や外部環境)とのコンセンサスが成立しなければ効果がないという「ドメイン・コンセンサス」の議論や、製品が持っている「意味領域」は、企業側が一方的に決められるものではなく、ユーザとの相互作用を通して形成されていく「相互的意味創造」の議論や、それを引き起こすための「意味の余剰」や「引き込み」の議論は勉強になりました。

本書では、そのような議論を数多くの事例(成功したものも、失敗したものも、現在進行形のものも)を取り上げて解説されています。中でも日本企業の事例は、コア・コンピタンス経営をドメインの視点から解説したようなものになっていて参考になります。