そうした以前の作品とは対照的に、本作は75年11月と12月に行われた4回の公演から選りすぐり、ディランのとどろく雷鳴のごときパフォーマンスのスケール感と細やかさをしっかりとらえている。『Nashville Skyline』収録の以前はカントリー調だった「Tonight I'll Be Staying Here with You」は、本作ではうって変わっている。また、「It Ain't Me Babe」を明るく彩っているのは多楽器奏者デビッド・マンスフィールドと、この急ごしらえの愉快な寄せ集めバンドの推進役でありデヴィッド・ボウイのバンドの元ギタリストだったミック・ロンソンである。
そして、騒々しいフルバンド編成での古いナンバー(「The Lonesome Death of Hattie Carroll」)や新しいナンバー(76年初めになって発表された『Desire』収録の「Hurricane」を含む5曲)の演奏のあいだに、アコースティック・ソロが組みこまれている。ツアーに多くのバンドのメンバーやゲストが参加するなか、ジョーン・バエズは特筆に価するめずらしい「Mama, You Been On My Mind」やトラディショナルソングの「The Water is Wide」など4曲に参加し、ディランとスポットライトをわけあっている。けれども、どんなに多彩なゲストが登場しようとも本作はディランのショーであり、70年代のディランがどのようにして自身の60年代の絶頂期に区切りをつけたのかを示している。(Steven Stolder ,Amazon.com)