ハイブリッドであるために時間を旅できる(自由にではないが)主人公と、執拗に追いまわすマグザット。そこにその時間の事情も加わり、複雑な紋様を描いています。最後は神林長平らしい終わり方です。
脳にチップを埋め込まれた火星軍のハイブリットソルジャー邑谷武。無機生物マグザックとの戦闘に破れ、時空を飛ばされた彼は1976年の新潟に転移した。物語はその10年後の1986年から始まる。戦友中条が未来から送ってきたメッセージが届いたとき、邑谷のいる世界も変容し始める・・・。機械が認識する時間と、人間の時間の流れる方向は異なるといった独特の理論を背景にして、神林長平独特の世界にしあがっている。
スピード感のあるハードボイルドな文章が魅力。ハイブリットソルジャーが身体に埋め込んでいるTIS(戦術情報プロセッサチップ)は様様なコンピュータに侵入できるなど、さながら攻殻機動隊的世界。本作は、当時SF界で隆盛していたサイバーパンク的系譜に連なる作風。登場人物も多くなく、作品スケールとしては神林長平の代表作に比べるとこぢんまりとしている印象はあるが、疾走感あふれる展開は退屈ではなく、ファンであれば十分楽しめる。