死と生
★★★☆☆
1992年に徳間書店から出た単行本の文庫化。
これまた不思議な話である。猫が出てくる。時間の混乱がある。戦車もばっちり。神林的なモチーフが目一杯、注ぎ込まれている。
メイン・テーマは「死」の問題。それがまたありきたりでない。ちょっと想像もつかないような切り口が使われており、読んでいて考えさせられた。
異色の内容だが、完成度という点ではいまひとつかな。
魂は死んだらどこに行くのか
★★★★★
神林長平の作品は軍隊を舞台としたものが多い。この作品についてその必然性を言えば「無茶な命令がまかり通るから」だろう。
行方不明の猫の捜索命令を受けた三人の登場人物は、探索装置を起動した瞬間、光と共に一切の通信手段を立たれる。彼らの行き着いた先には何故か信州。
そこには30年前の信州が足元の瓦礫の下に埋まっていて、空にはクジラが浮かんでいる。撃つ。食べる(^^;
この不条理な世界はなんだ…と問えば、どうやら死後の世界らしい。
「命令を遂行せよ、死んでも連絡を絶やすな」という上官の命令は、文字通りの意味だった…というわけ。
彼の作品は心とか魂の問題を考えるものが多いけれど、この作品は「魂は死んだらどこに行くのか」という極めて宗教的な問いに対する神林流の思索を SFの形式でまとめたものだ。
この世界では、ある理由で「魂の開放」が滞っているらしい。死んだはずの人間の魂がこの世に舞い戻っているらしい。その証拠を知らされた軍が、死後の世界を正常化するために三人の軍人に「ちょっと行って原因(猫?)をとっ捕まえて帰って来い」と命令する。
行くのは「あの世」帰ってこられる保障無し。
神林軍の命令は厳しい。
しかし、あの世にいった彼らは三人三様の考え方をして、ミッションをクリアした後の生き方・死に方もそれぞれだ。その自由な思索が面白い。
世界は不条理だが、そこに生きている(死んでいる?)人々はリアルだ。
なぜ死んだ?
★★★★★
冒頭で、軍人三人の一行は鯨の肉を食べています。ああ、古い本だからなと思ったら、絶滅したシロナガスクジラの肉なのだという説明があります。シロナガスクジラはまだ絶滅していない気がしますが、この本ではそういうことになっています。
そして唐突に、降旗少尉が、自分たち三人は死んだと思うと言い出します。
昔の日本をおかしくしたような不思議な世界にいることと、任務に就く前に説明されたことを良く考え合わせるとそういう結論になるというのです。しかし、なぜ冒頭から死んだと思うと言い出すのかは、最後まで読んでも不可解です。
その後も、使った燃料が使用前の状況に戻っているなど、不可思議な現象が次々に起こります。生と死の間をさまよっているのは確かなようです。
ストーリーの意味はどう考えるかは個人の自由という感じで説明が少ない(私の父はわからん本だと言った)ですが、途中で何度も仮想現実体験装置が出てきて、それを着けているうちにどちらが現実かわからなくなるという場面が何度も繰り返され、読んでいる私も本を置いてからしばらく、この現実が現実でないような錯覚に囚われました。
そういう酔い方が好きな人には、とてもおすすめです。単純明快さを求める場合は、おすすめできません。
うまく死ぬには
★★★★★
情報車秋月で出動した情報軍降旗小隊は、人類の命運を握る首相の猫オットーを捜索に行くが、降旗少尉の精神世界のような異世界に飛ばされる。自身の死/死後の世界を疑いつつ任務をこなす小隊員はユニークで、死の禅問答をウエットな会話でつきつめ、40代世代ににやりとさせるTV番組もちりばめ、これもある種の、しみじみしたハッピーエンドです。
生死ふらふら。
★★★★★
いきなり謎の世界に放り込まれ、生きるか死ぬかの大冒険? しかしどうにも悲観的にならないのが神林流。脳天気な隊長と、クールな先輩、そして気弱すぎてヤケッパチな下っ端は、放浪と、死者たちとの出会いと、生死理論考察の果てに何を知るのか。どんな運命が三人を待つのか。ラストは少しウルッとしました。