したがって、精神的苦痛の構成要素とその原因になる精神的欲求の特徴を、対話や手紙などで引き出すことが、自殺防止の第一段階であり、本書では自殺を図った何人かのケーススタディーとして明らかにされている。著者はまた、自殺志願者が示す何らかの前兆(サイン)を知ることや、自殺志願者が陥っている視野狭窄的心理に対して多様な視野を回復させること、自殺志願者の思春期に潜む精神的欠乏体験を引き出すことも、自殺防止のために重要であると指摘する。
自殺防止の最大のポイントは、その人の精神的苦痛が何なのかを知り、それを緩和する手段を講じて、ほかの選択肢を思い浮かべさせること。わずかな改善でも、自殺抑止には大きく貢献するという。自殺のプロセスを平明な言葉で解明した本書は、自分の家族、友人など身近な人が、そして自分自身が、自殺者の道を歩みはじめる危険性が否定しきれない現代社会において、広く一般の人々に、自殺予防についての示唆を与えてくれる。(松木晃一)