コーポレート・ファイナンスは、日本が米国に大きく遅れをとっている分野のひとつだが、そのおもな原因は、近年までの日本の資本市場が極めて規制色が強く、金融機関の影響力が強い未成熟なものだったことにある。バブル期の日本ではエクイティ・ファイナンスのコストが、借り入れコストを下回るのが常態であり、市場の効率性をはじめとするファイナンス理論の前提が満たされていなかった。証券不祥事などを経て日本でファイナンス理論の研究が本格化したのは最近のことである。
昨今の米国のビジネススクールは、市場環境の時流に沿った理論の応用を重視する傾向を強めている。同教授もまた企業価値最大化という企業レベルの観点から財務の議論を「投資」、「資金調達」、「配当政策の決定」という3段階に分類し、多くの事例を交えて理念、概念と企業財務の実践との距離を縮めるよう試みている。従来の個別テーマ、理論本位のものに比べて初学者にも親しみやすい内容および構成となっている。
同教授が指摘しているように、多くのノーベル賞学者を輩出してきたコーポレート・ファイナンス理論の核となる原則は、今に至っても驚くほど不変である。同教授の主張する短期、長期財務管理の統合の必然性等については異論もありそうだが、経済学分野は仮定を伴う学問であるためにさまざまな解釈はあり得る。本邦学識者による独自の研究成果が待ち望まれる。(徳崎 進)