1865年英国で出版された『不思議の国のアリス』は、日本でも1908年(明治41年)の初訳以来、大正の鈴木三重吉、昭和の芥川・菊地寛共訳など、数多くの訳本が刊行されてきた。掛詞、地口、しゃれ、でたらめ、替え歌など言葉遊びの魅力=魔力が、文学者や研究者の翻訳熱に火をつけ、近くは柳瀬尚紀、北村太郎、矢川澄子の訳も記憶に新しい。
本書山形訳は全体に平易で、風通しがよい。「涙の池」の冒頭、ケーキを食べた途端どんどん伸びていく足を見て叫ぶアリスのせりふ「curiouser and curiouser!」が、「チョーへん!」と訳される。「奇妙れてきつ! 奇妙れてきつ!」とか、「てこへん、へんてこ!」とか、「へんてこんて、へんてこんてえ!」などの他の訳と較べると、いかにも平成若者言葉。有名なお茶会シーンも、「三月うさぎと帽子屋さんが、そこでお茶してます」と軽快だ。
スソアキコのアクの強いギャグマンガ風の挿絵がまた、アクションが効いていて、CGやテレビゲームに慣れた子どもたちにはぴったり。ジョン・テニエルの画がこの作品に与え続けてきた「純文学」調のイメージを一新している。(中村えつこ)