手ごろな価格で手に入る白川静氏の辞典
★★★★☆
白川静氏の辞典はとにかく値が張る。「字訓」「字通」など、机上版の辞典ほどの大判であるが、20,000円前後と非常に高価である。これではなかなか手が出ない。「常用字解」は、その名のとおり常用漢字に限られるが、白川氏の研究の成果を紐解くことができる。
ただ、辞典として購入するのはお勧めできない。先日、「鹿」を引いたところ常用漢字でないために載っていなかった。自分では当然常用漢字であると思っていても、案外常用漢字から外れていたりする。そこで、少々割高であるが、「字統」の普及版(6,300円)の購入というのもお勧めである。
おすすめ。
★★★★★
漢字の成り立ちを詳細に、かつ学説的に説明することに
よって、古代中国の文化人類/歴史学にいたる
広い範囲で思考をめぐらせることが可能。
古代中国の人々の生活や思想、文化まで
読み取れてとても興味深いです。
いわゆる“白川節”なのでしょうが、
私はとても共感できます。
棺桶までもっていきます。
白川説字源に興味を持った方に入門書としてお勧めできる著書
★★★★☆
著者の作品で有名な字統、字訓、字通があるが、正直この三部作品は文字に対する知識がなければ理解するまで大変な作品であり、三部から入った自分は内容の複雑さに辟易した。
しかし、常用字解は入門者でも解りやすく書かれているので、興味を持った方にはお勧めできる作品である。
値段としても三部作品は普及版でも各6000円という額であるが、この常用字解は参考書程度の値段なのも良い。
ただ、あくまで読み物としてであり、受験生の辞書としてなら、どうしてもライバルとして扱われてしまう藤堂氏の漢字源や漢辞海の方がお勧められる。
古代の成立した時期の意味を強調する本書より、作られたのは象形でも、少しずつ音で意味が変容していった歴史が漢字にはあるので、現代使われている意味が多く網羅されている辞書を作った藤堂氏の方に受験生の辞書としては軍配が上がってしまう。
説文学者の怠慢を撃つ
★★★★★
たとえば、屋根の下に豚がいるから「家」。屋根の下に女がいるから「安」らか。牛が人を角で突いて知らせるので「告」。真剣に漢字を理解しようとする人間がこのような漢字の字源の説明を聞いて疑問に思わないことがあるだろうか。また、子供にこのような漢字の字源の説明を求められて戸惑いをおぼえないことがあるだろうか。
これは従来字源の聖典視されていた『説文解字』の無批判な踏襲に起因する。後漢に編まれた『説文解字』のいちばんの問題は甲骨文字を知らなかったことにある。甲骨文字の発見は1899年。以来字源の研究は長足の進歩を遂げた。
しかるに、次々に発刊される漢和辞典の語源の説明は以前として『説文』を踏襲している。これは説文学者の怠慢に他ならない。
『常用字解』は甲骨文字発見以来の成果を採り入れると同時に、宗教・社会・風俗などの文化史的理解に基づき漢字の構造と字源を説明している。つまりいわゆる白川漢字学に基づいている。「家」、「安」、「告」など白川漢字学に照らし合わせると、従来の解釈とはまったく異なる真実がこの上ない説得力を持って現れてくる。
本書は常用漢字だけを取り上げている。中・高校生を対象にしていると著者はいうが、内容のレベルはそれより高く、大著『字通』の格好の入門書であり、漢字に興味を持つ人すべてが座右にすべきであろう。
新しい文字学の体系・快哉を叫ぶべき書
★★★★★
後漢の時代、許慎の著した『説文解字』は、長い間文字学の聖典とされてきたものであるが、その資料とするところは主として篆文であった。つまり、秦代の通用字形である篆文より古い字形の甲骨文字や金文は考慮に入れられてはいない。
著者は、『説文解字』の字形解釈には「誤りがはなはだ多く、ほとんど謎解きに近いものもある。」と記す。その理由は、許慎が「古い字形の甲骨文字や金文を見ることができ」なかったことと「漢字が成立した時代についての、古代学的知識の欠如」に拠ると記す。
そして、甲骨文字、金文という新しい資料の出現によって『説文解字』に代わる「新しい文字学の体系を作り出すことが可能となった」と慎ましく記す。
しかし、後漢の時代以来の聖典に代わる新たな権威ある体系を現に構築したということは、まさに快哉を叫ぶべきことと言える。
「漢字が成立した時代についての、古代学的知識」の豊かな土壌から萌え出すような解説は当該書籍の魅力であり、文字を介して遠い古代へ読者を誘うものともなっている。