本書の論述は、先行研究のレビューに基礎づけられた、アカデミックに健全なものである。が、記述は平易かつ説得的で、よく練られている。夥しい数の戦略事例が挿入されていて、それもおもしろい。内容は、「戦略とは何か」「パフォーマンス(成果)とは何か」「脅威および機会の分析」「企業の強みと弱み」の分析で構成されている。
この巻は文字どおり基礎的な議論に充てられており、RBVの特色が一貫して出ているわけではない。例外は「企業の強みと弱み」を論じた第5章だ。企業の強みと弱みは伝統的な議論で頻繁にとりあげられてきたが、この章では明確にRBVの観点から、価値(V)、稀少性(R)、模倣可能性(I)、組織(O)の4要素でそれを分析するVRIOフレームワークが提唱されている。またVRIOを用いた例として、デル(パソコン)とソフトドリンク業界に関する秀逸な分析も出ている。本書の最もおもしろい箇所である。
本書は3巻本の邦訳の1冊目だが、それでも300ページを超えるボリュームだ。それほど議論は包括的・体系的で、多岐にわたっている。概念的説明だけでなく事例も多く、論述はサービス精神にあふれている。標準的なテキストブックの執筆に著者が驚くべきエネルギーを注いだことが分かる。これは要するにプロが書いたテキストブックである。アメリカのビジネススクールが日本で通常考えられているよりアカデミックな性格が強いことを、読者は本書から感じとるだろう。(榊原清則)