清十郎
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この巻の最初に載っている『背負いしもの』は今までの話の中で一番好きです。前話の『居場所』が武蔵視点だったのに対してこっちは清十郎視点になってますが、短いながら吉岡清十郎が背負っているものがどれほどのものか解った気がしました。武蔵に斬られる瞬間に伝七郎その他の人物が頭をよぎる瞬間の所が一番良かったです。
巨星去って腐りゆく吉岡道場。
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武蔵は、吉岡清十郎との勝負に勝利する。これで、武蔵と伝七郎との勝敗はより明らかになった。しかし武蔵は清十郎との戦いで怪我を負い、光悦と妙秀の家で世話になることに。そして偶然にもそこには佐々木小次郎も泊まっていた。
武蔵は勝負を目前にして吉岡伝七郎の一行と出会う。そして背後から祇園藤次に襲われる。清十郎との戦いで片目に傷を負った武蔵は、藤次の相手をするのが精一杯で後ろの伝七郎にまで手が回らない。しかし伝七郎は、武蔵が藤次を斬り伏せるのを黙ってみていた。伝七郎の甘さが吉岡道場を滅びに誘う(いざなう)。
植田は伝七郎に黙って佐々木小次郎に武蔵との果たし合いの身代わりを頼もうと画策する。
この巻では、清十郎の死骸があまりに醜くてリアル。生きている時は美しかった青年も、生気がなくなると魚の死骸と変わらない。やっぱり人間は死んではいけない。生きてこそ人間。
激闘の果てに…
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新年を明けての吉岡清十郎と宮本武蔵の壮絶な戦いは武蔵の無意識かに放った神速の一撃が清十郎を切り伏せるという結果で幕を閉じる…。
このバガボンドというマンガは緊張感、臨場感といったものが味わえるすばらしい作品だと思う。
アー
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今どきあえてストレートな宮本武蔵伝。
佐々木小次郎が出てきたあたりから俄然おもしろくなってきた。
この話は、武蔵がどんどん強くなっていく話ではなく、
武蔵がいかにして小次郎に出会うか、っていう話なんだね。
上手いなあ。
孤独の漂流者
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この作品の全体を通して、原作者を含む様々なキャラによって放たれる「つながり」と言う言葉。言い換えれば、登場キャラの誰もが、自分なりの「孤独」を抱えて、「つながり」を渇望している姿を描くのが、この作品の本質なのかもしれない。孤独故に命の重さを知らず、孤独故に剣の道に惹かれ、孤独故に命の取り合いの時だけに生じる、真の他者との「コネクト」を求めるのだ。そして孤独な彼等が生き延び、各々の「つながり」を見出した時、各々の形で「命の奪い合いの螺旋」から身を引いていく。「つながった」時に、人は自らの価値を見出し、場合によっては「臆する」のだ。そして強靭な武蔵だけが「孤独」を漂流して流れて行く。つまり、彼が求める「天下無双」とは自らが「孤独である事」を正当化できる、唯一無二の称号なのだ。
そして自分を欺いて生きる又八、無音の世界で過ごす小次郎らが、自らの「孤独」を、武蔵のそれと鮮やかに対比させて行く。
ネットや携帯の過剰な普及で、「孤独」である事の意味を見失いつつある我々にとって、やはりこの漫画は深く響く。時代劇でありながら、普遍的なテーマを描きながら、この作品は「今現在」そのものなのではないだろうか、と思う。