未来のための伝統
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この本は、著者がアメリカで講義した内容を基に新たに書き足し、書き直したものである。今まで日本人として心の隅で感じながらも意識していなかった部分が、明確な言葉となって現れてくる。一章に一つずつ明確なキーワードが与えられており、本を読み終わると日本の文化を考えるための10の観点が頭の中に残る。
『古いものすべてが伝統ではない。未来への発展や新しい創造への可能性を持った物のみが伝統の名に値する』と著者はこの本の中で述べている。その言葉通り、この本の中に書かれているのは、過去の出来事や物の紹介ではなく、そのデザインの発想に関することである。1966年に出版されたものであるが、まったく古さを感じさせず、今も現代建築デザインの中心で頻繁に語られる内容を数多く含んでいて驚かされる。
明確な言葉で、日本の曖昧な文化に言葉を与えていくこの本は、未来の建築、都市を考える人に、新たな可能性を感じさせてくれる本であると同時に、『論理的、合理的に物事を捉えること』についても考えさせられる本である。