熱心なファンの間では『ハロウィーン・コンサート』等のブートレグとして知られていた、フォーク期のディランのライヴ音源が初のオフィシャル化。従来のプロテスト・ソングからの脱却を図った『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』(64年)と、フォーク・ロックへと劇的な変化を遂げた『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』(65年)との間に行なわれたツアーからのもので、当時恋人と噂されていたジョーン・バエズとの共演も聴くことができる。
レコード化されなかった「出ていくのなら」(ストーン・キャニオン・バンドのバージョンでおなじみの曲だ)などは特に聴きものだが、アコースティック・ギターの弾き語りながら、すでにロックのビートを内包している点に注目してほしい。観客の好意的な反応は、この時点ですでにディランの内部で起き始めていたロックの胎動にまだ気づいていない証である。(木村ユタカ)