こんな作品が日本でも書かれていたんだ
★★★★★
「白孔雀のいるホテル」が秀逸である。芥川賞候補作にもあがったが、当時選考委員の一人だった川端康成の言を借りれば「(小島信夫・庄野潤三の二受賞者に)小沼丹氏を加えて、三人でも一向差支えはなかった。三人では多過ぎるかもしれないという、漠然とした空気」で落選した。
小沼の作品は都会的センスと何ともいえない気品が感じられる作品が多いのだが、この作品ではそれと共に登場人物たちの欠落感がユーモアを醸し出し、現実離れした浮遊感として独特の作品に仕上がっている。小沼は「黒いハンカチ」で再評価されていると思うが、「白孔雀のいるホテル」でも見直されていいと思う。
タッチは軽いのだが、正統な「小説」の香りは濃厚
★★★★☆
1954年の第31回芥川賞候補作『村のエトランジェ』、
並びに第32回芥川賞候補作『白孔雀のゐるホテル』
を収録した小沼丹の初期短編作品集。
上記2作や『紅い花』などを読むと共通して
舞台を田舎に、語り手に垢抜けない少年を置き、
どこか戦争の影を引き摺る時間を設定している。
この道具立てだけであれば、土臭い田園文学に
なってしまいそうだが、小沼丹は違う。
軽妙かつ酒脱に始まる語り口、
そして生活力のなさそうなインテリ青年と
生活感のない妖艶な謎の美女が登場し
牧歌的風景とミスマッチな廃頽的関係を見せつける。
そして呆気ないほどに訪れる転機、
時に衝撃的なクライマックス。
タッチは軽いのだが、正統な「小説」の香りは濃厚、
という不思議な作品集である。
貴重な小沼丹初期作品集
★★★★★
本書に収められているのは以下の8作品。
「紅い花」「汽船」「バルセロナの書盗」「白い機影」「登仙譚」「白孔雀のいるホテル」「ニコデモ」「村のエトランジェ」
魅力的な初期作品ばかりである。「白孔雀のいるホテル」は、かつて河出書房から出ていた河出新書の1冊に入っていた。しかし、今ではそれは古書としても相当な値段がついており、容易に手に入らない。この短篇はおそらく全集以外では読めないのではないだろうか。そして、その全集も1冊1万円以上するわけだから、なかなか買うまでには至らない。そういう意味で、今回の講談社文芸文庫版はありがたいことこの上ない。私ははじめ表題作目当てで買うつもりだったが、この作品が収められていることを知り、思わず小躍りした。
表題作「村のエトランジェ」は、芥川賞候補作にもなった小沼の代表作である。ちなみに、この作品は佐伯一麦の『芥川賞を取らなかった名作たち』(朝日新書)でも詳しく取り上げられている。
本書に収められている作品を読み感じるのは、死が描かれているにもかかわらず、なぜかトーンは暗くない。梅雨が明けた夏の日のようにカラッとしている。そこがこの作品集の魅力といえるのではないだろうか。