エーコのスタイルは、「記号論」という我が国ではえてして軽薄な印象を与えがちな肩書きにも関わらず、たいへん抑制されたものであり、文献的な裏付けに基づいています。
手っ取り早くこういうことだという要約が欲しい人には不向きであるかも分かりません。むしろ、ヨーロッパという図書館の奥深さが与えてくれる目眩を楽しむべきなのです。もちろん、邦訳の表題通り『薔薇の名前』の読者は、随所でにやりとさせられることでしょう。