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新装版 逃亡 (文春文庫)

価格: ¥535
カテゴリ: 文庫
ブランド: 文藝春秋
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謀略はあなたのすぐそばにある ★★★★★
脂ののった頃の吉村先生の作品です。
ある元日本兵の証言を元に小説が展開します。
しかし、著者の作品に共通することですが、そこには必ず著者の視点が入っています。
ノンフィクションンの先駆けとなった「戦艦武蔵」でも、吉村先生は「これで小説になる。」という
素材の核を握って書かれています。
太平洋戦争(大東亜戦争)の真っただ中、世界でも極めて排他的な日本社会に、鬼畜米英の間諜(スパイ)が
存在していたことに、少々びっくりしましたが、ゾルゲ事件などをみてもそれは当然かと思いなおしました。
しかし、当時の一般の人間には想像もできないことだったでしょう。
その罠に主人公ははまってしまいますが、驚くのはその後の主人公の生き抜く「力」です。
私なら絶対に捕まって白状しているよなぁ、と思うような状況でも、主人公は生きていきます。
その旺盛な、ある意味獣じみた「生命力」を吉村先生は描きたかったのか、とも思ってしまいました。
今の日本人にはこの「生命力」が薄れたと思います。そして、その生きる「力」を無くした現代日本人の
すぐそばにも「謀略」は常にあるのです。

2010年9月24日、準大手ゼネコンの社員が「うかつにも」中国政府に拘束される事態を引き起こしました。
私の感想は「飛んで火にいる夏の虫」でした。危機意識がなく、おまけに生き抜く力もなくした現在の日本人は
どこに行くのだろうか、と思いながら読み終えました。