前作と比べると、この『Dear Catastrophe Waitress』は、全12曲のほとんどを全力疾走で突き進み、はしゃぎ回るアルバムという感じがする。はつらつとしたホーン、雰囲気、ストリング・アレンジが、そんな印象に拍車をかける。スチュアート・マードックの歌声とアコースティック・ギターだけで勝負したチューンでさえ、ほの暗いメランコリーよりもユーモアを強く感じさせるほどだ。「Piazza, New York Catcher」は、野球界のスター、ピアッツァ選手のセクシュアリティーについて、伝統的で叙情味豊かなフォークのかたちを借りて考察するという曲。まるで前世紀あたりから届けられたラブ・レターのような味わいのサウンドだ。
マードックの歌詞にはあいかわらず奇妙なところがあり、そんな傾向がバンドの意図と齟齬(そご)をきたす場合もある。たとえば「Step into My Office, Baby」は、ロミオを気取る男からの誘惑を描いたにしては説得力がなさすぎるし、“Tokyo”と“Thin Lizzy-o”で韻を踏ませているのにも無理がある。とはいえ、マードックと仲間たちの奏でるサウンドは新鮮で、共に音楽をやれる幸せをかみ締めているようでさえあるのだ。この高揚感あふれるムードの演出にひと役買っているのが、プロデューサーのトレヴァー・ホーン。プログレ的な大仰さ(ホーン自身にとって、それなりになじみのある領域)に入りこむことなく、バンドのサウンドを磨き上げた功績は小さくない。
ベル・アンド・セバスチャンを気難しく内省的なバンドとして崇拝する長年のファンは期待を裏切られるかもしれないが、それ以外のリスナーにとって、本作『Dear Catastrophe Waitress』は、どうやら光が射してきた未来への歓迎すべき第一歩なのだ。(Keith Moerer, Amazon.com)