まず序盤では、生物学を専攻していた彼女が、障害児教育にたずさわるようになった経緯や、最初の「しゃべらない子」との出会い、そして、自身が「望まれて生まれた子どもではなかった」ことなどが語られる。いずれのエピソードも、熱血教師としての彼女の原点を垣間見るようで興味深い。また、虐待を受けた子どもの心を癒すためのステップなど、教育現場での実体験に基づいたアドバイスは、いずれも説得力があるものばかりだ。
さらに、いじめの問題を扱った第3部では、より実践的、具体的な提言となっていく。いじめの被害者と加害者に共通するのは、自己評価の低さであること、両者に対しての効果的な対処法、傍観者や教師には何ができるのか。綿密な調査をしたうえで講演に望んだというだけに、その内容は密度が濃く、学校関係者や親たちにとって、多くの示唆を含むものとなっている。また、「子どもを相手にするというプロセスを楽しむ」という信念に貫かれた彼女の著作への足がかりとしても、最適な1冊である。(中島正敏)