この英和辞典は、現在の情報量の豊富な辞書から見ると語義と用例に若干の説明が書かれているのみで、物足りない様に見えますが、いたずらに情報を増やさず、必要な情報は用例を読み込むことで学生に必要な知識を身につけさせたいという英語職人・河村重治郎先生の思いが詰まった辞書です。用例も単に数が多いということではなく、河村先生が時間をかけて収集され、その後長い間、読者に読み込まれ、磨き抜かれた珠玉の用例です。現在、同様の趣旨で作られた英和辞典は他になく、唯一無二の英和辞典です。投野由紀夫先生も高校時代、この辞書をご愛用されていたようです（「私の英語学習遍歴」）。河村先生の生涯について書かれた田島伸悟著「英語名人河村重治郎」を読まれると、この辞書の本当の素晴らしさがわかると思います。私には「新クラウン英和辞典」と「カレッジクラウン英和辞典」は特別な存在です。
英語を学習していく段階で、英語力に応じ辞書は買い換えていく必要があります。英語学習の初期の段階で、この小さな英和辞典が学習者の英語力増進の役に立つものと確信しています。
また、現在の第五版では削除されてしまいましたが、第四版まで記載されていた「本辞典を利用する勉強法」の中で河村先生は用例を音読することを勧められています。

これほど紙面の美しい辞書は他にない．余計な記号や太字・色の多用がなく，詰め込まれておらず疎でもない．内容は語義と例文だけで，邪魔なものがないので，とても気持ちよく読める．また，文型などを確認する目的で調べるのに使っても全く問題ない．文型表示記号などないが，例文からそれらを読み取るのはむしろ楽しく，この作業こそが上達に有益なのだと思う．
たとえて言えば，これはサッカーの名プレー集で，無駄な解説抜きでひたすら見せてくれる．対して，最近の高機能辞書は，プレー場面よりも解説者がずっとしゃべっている感じがする．この違いは良し悪しではなく，編集方針が異なるということであり，使用者の目的によってどちらも価値があるだろう．しかしながら，特殊な目的でなければ，見て（読んで）楽しめるのは明らかに前者だ．また，上達するのは，ひたすら良いプレーを見て自分でもやってみることを繰り返した人だろう．解説は的を得た一言があれば十分だ．分厚い解説書を片手に上達した選手はいない．

数十年前からたいした改定がなされておらず、最新の単語を収録していない。もはや存在意義なし。

３版くらいまで掲載されていた河村先生の「初版へのはしがき」を読むと熱意のある英語教師はかくあるべしと言う感じがした。収録語を増やしたカレッジクラウン英和というのが作られたこともあったが、むしろ収録語数が少ないが磨かれた用例の多いこの辞書の方が使っていて愛着がわく。学校を卒業して数十年経ち、英文を書くことの多くなった現在でも基本語の用例を調べるために手放せない１冊である。英和辞書を１冊で済まそうとする横着な人はともかく、持っていて損はしないと思わせる辞書である。

確かに、現在の学習英和辞典は、この『クラウン』の最盛期の頃と比べると様々な工夫が加えられて“進歩”している。しかし、使う側の人間は多様であり、編集者がよかれと思って付け加えた工夫が逆効果になってしまう場合もありうる。人によって、どのような辞書が向いているのかは様々であり、その意味で、非常にシンプルなこの辞書の存在意義もある。
なお、どんな辞書を使っても、最終的には用例をうまく使いこなせない限りは英語の力は付きにくい。すなわち、訳語と、語法注記だけ読んでも学習上は大したプラスにはならない。用例まで読んで初めて目に見えたプラスが生じるのである。『クラウン』は今の目で見れば、中途を全部省略してしまったようなものであるが、学習英和辞典としての条件は満たしているし、現在大多数の“親切すぎる”辞書よりも使いこなしが難しい分、きちんと使えれば英語の力も付くと思われる。