本書の主人公ネット・オライリーはこれまでに離婚すること2回、今は国税局に追われるくたびれ果てたアル中の弁護士だ。その彼が、フェランの遺言書に指定されていた謎の相続人を探しに、ブラジルの奥地へと派遣される。パンタナール大湿原にあるという人里離れた部落をめざして旅立ったネットは、途中散々な目に遭いながらも、ようやく宣教師レイチェル・レーンを見つけ出す。純粋な心を持つ彼女は、そこで部落民と生活を共にし、「神のおつとめ」を果たしていた。しょぼくれた弁護士は、レイチェルの計り知れない献身と思いやりに心を打たれる。やがて、伝染病による高熱の苦しみから解放されたネットは、これまでの生き方を変えてみようという境地に達するのだった。
一方、アメリカでは訴訟手続がだらだらと長引いていた。その間、グリシャムは、フェラン・グループの末裔である金の亡者たちに楽しいひとときをプレゼントしている。このどうしようもない親族たちは、既婚のストリッパーたちとのおふざけや麻薬、それにマフィアとの付き合いに数百万ドルの金を使いまくる。末息子のランブルなどは、自ら率いるロック・バンド「デーモン・モンキーズ」の大成功を夢見る、全身ピアスとタトゥーだらけのごろつきだ。レイチェルの救いの手によって、ネットはまっとうな生活に戻れるのか?貪欲な相続人たちはそれぞれの分け前にありつけるのか?一生を賭けた仕事の真の遺産とはいったい何か?
『The Testament』(邦題『テスタメント』)は典型的なグリシャム作品である。落ちぶれ果てた弁護士、うなる金、刺激に満ちた法廷シーン、そして人生で最も大切なのに忘れてしまいがちなことを扱った作品だ。本書はただ気高い心を描いているだけではない。どう気高くあるべきか、という疑問への手がかりとなる作品である。