大人になろうとしている子どもへの温かいまなざし
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ストーリーの本筋とは直接関係はないのですが、いちばん感動させられたエピソードについて、少し書かせていただきます。
この続篇では、エーミールを女手一つで育ててきたお母さんに、イェシュケ警部という求婚者が現われます。とてもいい人なのだけれど、お母さんはほんとうは今まで通りエーミールと二人きりで暮らしていきたいと密かに願っています。でも、エーミールの将来を思えば、頼もしい義理のお父さんができることは喜ばしいことなので、そのことをエーミールには打ち明けません。そしてエーミールのほうも、イェシュケ警部のような立派な再婚相手ができれば、お母さんは幸せになれるだろうと考え、ほんとうはお母さんと二人きりで暮らしていきたいという気持を、お母さんには隠しているのです。おばあさんの口から、お母さんのほんとうの気持を聞かされたエーミールは、自分の感情よりお母さんの幸せを優先させて、ほんとうの気持をこれからもずっと隠し通そうと決意します。おばあさんはそのエーミールの決意を聞いて、偉いわ、今日、あなたは大人になったのね、といいます。
子どもが大人になる過程では、さまざまな辛いこと、苦しいことがあり、子どもたちはそのハードルを一つ一つ乗り越えて行かなければなりません。誰もそれを助けてやることはできないのです。作者のケストナーは、一歩ずつ迷い、ためらいながら大人に近づいていくそうした子どもたちを、厳しいけれど温かい、限りなく温かいまなざしで見つめて、この物語を書いています。