道徳教材にもなる美しい絵本
★★★★★
小林敏也さんの展覧会で、この絵本の原画を見ました。緻密で美しく、絵本としての完成度の高いこの絵本がどのように作られたのか、その一端がかいま見えた気がしました。この絵本はそれだけでなく、子ども達に「いじめ」について考えさせるよい教材になるのではと思いました。かま猫をいじめる事務所の同僚に、獅子が一喝する場面はとても迫力があります。最後に賢治は「半分獅子に同感」と言います。なぜ獅子はあの命令をしたのかな、なぜ同感は半分なのかな、などの問いに、子ども達はなんと答えるでしょうか。
この絵本は、よくできた美術作品であると同時に、道徳教材としての価値も高い絵本であると思います。
猫の事務所
★★★★★
「大人の絵本」ということでしたが、3歳と7歳の子どもと一緒に読みました。賢治の深い思考と観察力が、黒井健さんの絵と見事に調和している不思議な説得力のある物語です。
差別される仲間の期待を背に、職場のいじめに耐える「かまねこ」。
子どもたちにも、彼の悲しみは心に届いたようで、「もう一回読んで」とリクエストが続く1冊になりました。賢治の作品にしては、現代の子どもたちにもわかりやすい展開で言葉回しだと思います。結末も余韻が残ります。疲れたとき、何度でも手に取りたくなりそうです。
心に沁みる珠玉の一冊
★★★★★
私の記憶の中の宮沢賢治は、少し暗い単調のクラッシック音楽のようなイメージです。心に沁みる童話が多いのですが、いつも何か完全には理解し難い不安のようなものが残るのです。
この「猫の事務所」も、最後に猫たちの言い分も何も聞かず、一方的に事務所を解散させてしまう「獅子」が出てきます。熱心な仏教徒であった賢治の「大いなるもの」への怖れを表しているように思えます。
私は黒井健さんの大ファンで「ごんぎつね」や「ころわんシリーズ」など何度も見返していますが、この作品は独特のやわらかさと共にりんとした美しさがあって、黒井作品のなかでも、屈指の一冊です。
私がどんなに文章で説明しても解ってもらえないのは承知の上ですが、21ページの背のある椅子の上で膝を抱えて泣きじゃくっているかま猫、33ページではうつむいてボロボロ泣いているかま猫の姿が、どうしても心から離れません。
ぜひ、一度手にとって見ていただきたい作品です。
偕成社の「大人の絵本シリーズ」はどれも粒よりの作品ですが、この「猫の事務所」はその中でもイチオシの傑作だと思います。
印象的な物語
★★★★★
猫にも事務所があるというのだよ。そこでは選ばれた猫たちが仕事をしているのさ。猫にもいろんな種類があってね。かまねこというのを知っているかい?なかなか出世は難しいのだが、そこの事務所にはかまねこもいるのだ。そのかまねこの物語を読んでみたかったら、これを読むとよい。きっとね、自分にも思い当たる事があるよ。そんな話だよ。
現代社会に通じる短編ながらも濃い内容
★★★★☆
この物語の主人公「かまねこ」は本当はやる気もあり、素直な新入り事務書記なのだが、同僚にデマを流され事務長からの信頼も失い所内で孤立してしまう。どこにでもあるような話だが、これを読む度に転職するのが怖くなったりもする・・・。最後に「獅子」が現れ、事務所の解散を命じて立ち去っていくのだが、これがなんとも空想を膨らませる終わり方で作者がどんな意味を込めて書いたのかがとても気になる。宮沢賢治の作品はどれをとっても素晴らしいが、「猫の事務所」がいつまでも心に残って離れない。