童話やファンタジーは、子供の頃に「ナルニア国ものがたり」全7巻と出会って以来、そこそこ読んできたつもりでいたけれど、なぜか今まで、安房さんの作品に触れるチャンスがなかった。それが今月、このコレクションのおかげで、安房さんの作品の数々に親しむことができた喜びは、計り知れないほど大きい。
コレクション第7巻の本書には、「緑のスキップ」から「うさぎ座の夜」まで、全部で11の物語と、安房さんの14のエッセイが収録されている。
物語で特に気に入ったのは、「エプロンをかけためんどり」と「風になって」のふたつ。
母親代わりに家にやってきためんどりと、五歳の少女が心を通わせていく姿に、しみじみ切ない気持ちにさせられた「エプロンをかけためんどり」。
宝温泉の娘、小夜(さよ)が、風になって、夏の緑の中、空を飛ぶ姿を描いた「風になって」。
とりわけ後者の話を包んでいる、颯爽とした物語の空気が素敵だった。ブラッドベリの「四月の魔女」(『太陽の黄金の林檎』所収)に通じる、魔法飛行の風合いの生き生きしていること。わくわくしながら読んでいった。
特に、エッセイからは、机に向かってペンを走らせる安房直子さんの姿が、彷彿としてきます。編み物を一針一針編み上げていくように、物語を編み上げていく人のほっそりと淋しげで、すこしかたくなな肩の線が浮かんできます。
“平凡な生活の中から、豪華絢爛の魔法物語も、壮大なロマンも、静かでやさしい小さなメルヘンも生み出すことができたらうれしいと、思っています”エッセイの最後の言葉です。
が、平凡な生活の窓から見える風景が、こんなに果てしなく広がっていくファンタジーの世界であること、その世界を物語として読むことができることを一読者として深く感謝しています。
安房直子さんの物語は、物語も面白いですが、物語を構築している言葉一つ一つが魅力に富んでいます。その言葉の微妙なニュアンスは、アニメにもマンガにも映像にも置き換えることのできないものだと思います。