本書を紐解けば分かるが,最近の親切な概説書と比較すると,やはり敷居は高い.初心者は講義を聴くか副読本を併用するかしないと,本書を「基本書」として使いこなすことは困難だろう.ただ,本書は大部分で,詳細な注と参考文献列挙にかなりの紙幅を費やしている(この点は著者の学者としての凄みを窺う事ができる)ので,実質的には三分のニ位の頁数である.本文だけなら,慣れれば一読する時間はそれほどかからない.
本書をある程度自在に使いこなすためには,数年位の努力は必要かもしれない.しかも,最後に改訂されて以来,十年以上改訂されていない.しかし,改正立法と新規判例を補えば十分現役で使えるし,その価値も十二分にあると思う.
余談だが,本書の面白いところは,他説批判を展開する際に日本人学者の見解を批判するのではなく,その日本人学者の理論の輸入元である本家ドイツ人学者の見解を直接批判する形式を採ることにあると思う.最近の概説書はそんな「典雅」なこと(回りくどいこと?)をあまりしなくなっている.これを本邦刑事法学界の「成熟」と見るか「退廃」と見るかは,議論の分かれるところだろう.