ラテン語句に少々関心を持つ筆者の手許には、岩波版田中・落合編「引用語辞典」、岩波文庫柳沼編「ギリシア・ローマ名言集」、NHK出版「名言百選」小林標著がある。
それぞれ特色を持つが、最大の不満はいずれの著書も語句説明を欠いていることだった。著者は苦心して名訳を付しているわけだが、学習者のレベルに身を置いた語句説明がないため「読者自らが当該名句を味読できない」というジレンマをいつも持った。
要するに一般読者向けというより、学者の高踏趣味に安住していた。（私がもっとラテン語ができたら、こんなグチは書かないのだが）

さて本著。収録語句数は約1,000。まずは順当。キケロ、ウエルギリウス、ホラーテイウス、オウイデイウス、新・旧約聖書などから幅広く収録され、語句の背景説明は簡潔ながら要を得ている。読者に対する最大の贈り物が、語句の文法的解説。ざっと全体の三分の一にこれが付いているのが嬉しい。

ラテン語はむつかしい。動詞の変化は無論のこと、名詞・形容詞の格を特定することさえひと苦労だ。それだけに、たとえ短い文言であれ、完璧に理解したと実感する瞬間には嬉しいものがある。ラテン語学習は何度も挫折し、今もって活用変化は身についていないが、
本著の語句解説を読みながら「あー、そうだった」とつぶやきながら、失った記憶をたどっている。

上級者には別の見解があるでしょうが、以上永久初心者のレビュウです。
つくりはペーパーバックで若干安っぽい。いい本なので、厚手の表紙を付けた「豪華版」を別に出してくれないかしら。