『アカシック ファイル』に出てきたような衒学や根源力の蘊蓄が散りばめられているので、切り張りかと思いきや、最後にはそれらの要素がまとまって終幕へと到ります。ただ、結果的に全てが伏線のように見えるだけで、これらは“世界観”と言ってしまっていいでしょう。そもそも本作はミステリではなく、広義のミステリーか、SF、和風に言うなら伝記小説。現代をベースにした『妖星伝』と言ったほうが分かりやすいかもしれません。
たぶん作者は小説が巧くないのだと思います。本作の主人公である鈴木にしても、『アカシック ファイル』の明石先生と語り口が同じですし、構成にしても冒頭に到るまでの情景をもう少し書いておかないと、ラストの真相が明かされたときの驚きが活きてこないと思います。いくら博覧強記の才人といっても神ではないのだから、少しくらい欠点があってもいいことですし、小説が巧くないからといって著者自身や他の著作の内容まで否定する気はありませんが。
『アカシック ファイル』と共通する、裏側の事情も色々出て来ますが、ラストでサスペンスでもミステリーでもポリティカル・フィクションでもないことが分かるので、それらの事実(たぶん)らしきことまで懐疑心が芽生えてくるのが欠点といえるかもしれません。読者の知識と根源力にゆだねられる部分が格段に大きくなっているので、ホントとウソの取捨選択が難しくなっているのです。まあこれは殆どのフィクションに共通する事ではあるのですが、本作で扱っているテーマは結構日常生活においても重要なものなので、はっきり峻別しておいてほしい気はしました。