コンチクショウメ
★☆☆☆☆
堀田善衛って誰?ああ、森有正の亜流だね、と言っている人には納得のいくであろう本。
それだけではもったいないので、『方丈記私記』『19階日本横町』『誰も不思議に思わない』『スペイン情熱の行方』など、堀田善衛のオリジナルにあたってくださるといいなあ、と思いますが。
堀田善衛もまた、サルトルとも親交のあった“知識人”ではありますが、「サルトルはよく話を聞いてくれたが、ボーヴォワールは文法的に正しくないことを話すとどうしてもわかってくれない」といったことを、さらりと書くような気どらなさで、共産主義に傾倒した人で(岩波新書の古典『インドで考えたこと』などがその代表作でしょう)、左派知識人との交流があるのもそのため。
廻船問屋の坊ちゃん、と言われて納得の、永井荷風的な粋な印象もありますが、「アラファト議長は血の汗を流している」といった政治的関心の強さ、切り口の鮮やかさが魅力の作家。
非核運動を訴える大江健三郎に「ゴモットモなことはウットウシイ」と言い切るなど、頭でっかちな印象はなくて、スペインの酒場で一緒になったのんだくれも、ノーベル賞作家も、全く同じように情報源にしている感のある、ごく力の抜けた人です。
というわけで、この本のはしゃぎすぎた雰囲気は、あまり堀田善衛らしくありません。それでもこの本の雰囲気がお好きな方には、東大仏文卒の端正さとクリスチャンとしての信仰を書き綴った、森有正とか、石原慎太郎の時事評論でもお読みになったらいいのではないでしょうか。
この本にコンチクショウメ、と思われ、それでも、古本屋に行くのは面倒な怠け者は、荻野アンナなんかいかがでしょう。
そして、単に“フランスのセレブとの交流”“ちょっと知的に”で読み始めるにしても、物を考えさせる余韻を残すのは、むしろ高卒の岸惠子さんのエッセイでしょうね。