この1953年のセッションはその最たるもので、デイビスは複雑な進行、有能なサイドマン、実に的を得た独自のコンセプトを組み合わせて、来るべきハードバップを予知している。
さらに注目すべきは、自ら作曲せずにこれらすべてを実現したことである。JJ・ジョンソンは完璧なトロンボーン・プレイの他に2曲、アップテンポの「Kelo」とタッド・ダメロン風の極上バラード「Enigma」を提供、テナー・サックスのジミー・ヒースはスタンダードになりつつあった自作曲「C.T.A.」を提供した。各曲とも4分以下という長さにエネルギーを秘めた、緊張感のある作りになっており、ほとんどはデイビスの哀愁漂うトランペットで始まり、アート・ブレイキーのはじけるパーカッションで終わるという構成だ。バド・パウエル作の「Tempus Fugit」はスリリングなリズムと、熱いビートに逆らうかのようなメロディアスなラインが印象的な傑作。デイビスとリズム・セクションだけの「I Waited for You」は、デイビスお得意の、スタンダードを複雑難解なムードに仕上げるお手本のような1曲。
ルディ・バン・ゲルダーによるリマスタリングは、この重要作に新たな生命を吹き込んでいる。「Enigma」の繊細なボイシングが鮮明に聞こえるようになり、デイビスのトランペットはより艶っぽくなり、ブレイキーのドラムはさらに激しく感じられる。(Stuart Broomer, Amazon.com)