リベラリストの貧困
★★★☆☆
筆者が慈愛あふれるリベラリストであることは、よく分かった。筆者が社会的弱者に向ける眼差しは暖かく、社会に向けた舌鋒は実に熱い。日本政府の住宅政策の貧困が、現在の劣悪な住環境を発生させ、それが社会的弱者を直撃していることに、筆者は憤りを隠さない。しかし、である。筆者の凝り固まったイデオロギーが、真の問題の所在を見えにくくさせてしまっている。残念なことに、筆者は、この本の中で、弱者の居住問題に対する有効な解答を、殆ど示せていない。筆者は、中曽根が嫌いであり、サッチャーが嫌いであり、小泉が嫌いであり、民間企業が嫌いであり、市場経済が嫌いである。だが、我々は、好むと好まざるとに関わらず、市場経済の中で、民間企業と共に生活している。市場経済の性質を理解したものでなければ、社会的弱者に対する保護も効果を持たない。故に、市場経済が間違っているから全部政府で丸抱えせよと言わんばかりの筆者の考えは、説得力を有することができない。また、いわゆる新自由主義や企業が憎いばかりに、いびつな弱者保護が引き起こした既得権益の問題にまったく触れないという姿勢は、著しくバランスを欠いている。同じ住居問題を扱った新書なら、平山洋介氏によるものの方が、公平で参考になる。筆者ほどの名声を得た人物であっても、この程度の分析、提言しかできないところに、わが国のリベラリズムの貧困を感じるのは評者だけではないだろう。とはいえ、わが国の住宅政策の経緯をまとめたものとして、資料的な価値はあると思われるので、星3つと判断した。
革命的 ゆえに甘めの 星4つ
★★★★☆
1.内容
日本という国は、社会政策としての住宅政策が貧弱である。かつては憲法第25条の生存権への配慮が不十分ながらなされていたが、中曽根さんや小泉さんの改革路線で、住宅政策というより経済活性化が重視され、その結果低所得者が住居を確保できず、派遣村のような事態が起こっている。また、問題のある建築物も散見される。本来は国民が相応の広さの安全な住居を確保すべきであるとすれば、居住権保障を法律に明記するなど、大胆な政策変更が必要である。
2.評価
必死の思いで家を確保した人にとっては、なぜ低所得者にも家が必要なのかわからないかもしれないが、衣食住は最低限のものであるので、そう考える方がおかしい。それはさておき、住宅政策の貧困を他国と比べつつ明らかにしており、方向性がいいのでぜひ皆さんに読んでほしいが、展開は疑問が多い(借家人が強いことは住宅供給に影響はないのか?部屋数確保からすれば、多少の規制緩和が悪いとは言えないのでは?結局、困窮者は、住宅にいたほうがいいの?施設にいたほうがいいの?など)ので本来は星3つレベルだが、人々の考えを変えうる革命的な本であることを考慮して、甘めの星4つとする。
恥ずかしすぎる我が国の住宅政策
★★★★★
日本の住宅問題を理路整然と提起する非常にまっとうな本。
小泉内閣が官から民へと進めてきた構造改革は住宅問題もまたしかり。
基本的人権、生存権の根幹ともいえる居住権を、利益追求の民間主導に変えてしまった罪悪は大きい。
本来は低所得者、ホームレスなどに対し、国が公的住宅を整備し、提供するのが行政本来の姿のはず。
日本の住宅政策のお粗末さ、無関心さにはあきれを通り越し、恥ずかしさする感じる。
おりしも去年に続く「年越し派遣村」のニュースの中で読んだので怒り心頭。
著者の語り口は静かだが、その裏に激しい怒りを感じる。良書。
本書がこの国の住宅政策の転換へのきっかけのために一石を投じてくれるよう期待したい。
★★★★★
たびたびの政策変更による現場への影響は、一般の新聞記事からはわからないことがしばしばある。本書にあげられている数々の事例もその典型である。
かつての住宅公団を衣替えしたUR。老朽化した団地を建て替え、大幅に家賃を引き上げて、収益をあげるためにそこに住んでいる住民さえも強制執行により立ち退きを迫る姿は、民営化したとはいえとても公共的機関とは思えない。同様に、東京都住宅供給公社が販売した超高層住宅など、かつての都営住宅のイメージからおよそ考えられないものである。
また、一人暮らしの老人の増加と孤独死の増加とコミュニティの喪失など、大規模団地で進む高齢化も目を覆うばかりである。一方で、「年越派遣村」であれほど注目されながらも、そこで斡旋された雇用促進住宅などは、立地の不便さからほとんど掛け声倒れに終わっている事実。
生活保護受給者へ民間業者が入り込んで、貧困ビジネス化している事実などなど。
「無駄の削減」という美名のもと、この国には、民間にできることは民間にという掛け声の元に推し進められた住宅政策の結果、若者たちを中心にハウジングプアと呼ばれる層が出現している現実に、考えさせられてしまう。
そういうなか、本書に紹介されている諸外国の住宅政策には参考としたい事例が多く、この国の住宅政策の転換へのきっかけのために一石を投じてくれるよう期待したい。