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世界の歴史〈22〉ロシアの革命 (河出文庫)

価格: ¥918
カテゴリ: 文庫
ブランド: 河出書房新社
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新しいボスを見てみれば ★★★★★
 第二十二巻、ロシアの専制政府への反抗の伝統を、デカブリストの乱からスターリンの政権掌握までの経緯に的を絞って記述した著作。他の巻とは明らかに違う文体で、本職が医師だった著者の個性の出た文章だと思う。

 以前「フィンランド駅へ」を読んだときにも感じたが、まさに死屍累々、社会主義思想家・革命家の骸が積み重なっていく光景が広がっている。失敗に次ぐ失敗を重ね、やがてその過去を振り返って学び、吸収したレーニンが天才アジテーターのトロツキーなどの人を得て、時機を得て、運も味方にして革命を成功させる様子、その後の内政の混乱、最終的にスターリンが大粛清を行うところまで、時に気持ちが入るが全体的に突き放した語り口なのが特徴で、スターリン独裁で幕を閉じるところは不意に筆をおいているのが印象的だ。新しいボスを見てみれば古いボスと同じだった、という結末が、何か痛々しい余韻を残す。

 ここに収録した出来事の時期にロシアの芸術は大きな実を結んでいることを思えばその作品の反響をここに聞こうとするのも面白いし、ここでの出来事は日本にも大きなインパクトを与えているのを考えるのも面白い(谷崎潤一郎の「細雪」にさえその残響が聞き取れる)。革命までの過程とその結果についても解りやすくまとまっている一冊。
コンパクトにまとまったロシア革命史 ★★★☆☆
世界最初の爆弾テロは、農奴解放で有名なロシア皇帝アレクサンドル二世の暗殺である。ロシア革命の火種は、ナポレオン戦争とそこで「西欧」と出会った青年貴族たちのデカブリストの乱にまで溯る。レーニンの革命の功罪はともかく、本書を読めばロシアにおける革命の勃発は必然であったことが納得できるであろう。共産主義に偏らず、無政府主義など別の潮流の革命運動、帝政ロシアの上からの改革などにも配慮された読みやすいロシア革命の本。
夢見人たちの歴史 ★★★☆☆
 ロシアでの革命の始まりから、その終わりまでの、革命家たちの群像を通じて見る精神史と言ったところでしょうか。デカブリスト、ナロードニキ、マルクス主義を通じて、ボリシェヴィキに至るロシアの革命思想の系譜をプーシュキンからスターリンまでの革命家の考えの要旨をたどりながら、互いにどんな影響を与え合いつつ、その独自なロシア革命への思想を形づくり、それを導いて行ったかを跡付けて行っています。

 著者の意図では、ロシアの革命が必ずしも必然的なものではないということを示したかったとのことですが、その意図は十分に達成されています。それに、私は今まで、レーニンの思想というものが、具体的にどのような特徴があるものなのかよく分からなかったのですが、本書ではロシア史の中でのレーニンの位置を示しながら説いているのでとてもわかりやすく、それがいかに独自なものであるかも知ることが出来ました。これを知れば、それからの共産主義の理解にも役立ち、近代史を学ぶ上での基礎知識を得ることにもなると思います。それに、ボリシェヴィキ、とメンシェヴィキの違いなどロシア革命を彩る諸派の履歴も詳しく、特に二月革命から、十月革命までの複雑奇怪な権力闘争の理解も進むのではないかと思います。イデオロギー論争など、勢い小難しくなりがちな内容ですので、比較的には分かり安く書かれてはいますが、さらっと楽しく読み進むとはいかないでしょう。それに近代ロシア史の解説に主眼が置かれているわけではなく、基本的なもの以外は革命家たちの内輪の話です。その方面に興味がないとあまり面白くはないかもしれません。

 本書を読み進んで思うことは、革命というお祭りが過ぎ去っていく過程の虚しさです。収録されている革命家たちの言葉の数々を見ていると、あなたたちはロシアの民衆を救いたいのか、ただ革命をしたいだけなのかと、思わずと言いたくなる思いに駆られてしまいます。何が最善の選択で、どうすれば正解なのかが無いのが歴史で、そうであるからこそ面白いのですが、この中で語られる無数の「正しさ」を見ていると、果たして今を生きる自分は、どんな正しさを奉じて生きていけばいいのか、はたと考え込んでしまうのでした。