山際淳司はそっと、語りかける。
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故・山際淳司さんの傑作集選。
本書を語るのに、打って付けの言葉が、著書『グッドラック』(中公文庫) の中にある。
「星というのは不思議なもので、見れば見るほど、肉眼で見える星の数が増えていく。
初めのうちは、一等星、二等星、三等星あたりの光度の強い星が見える。
そのままじっと視線を変えずに夜空を見つづけると、
もっと弱い光の星が見えてきて、その数は徐々に増えていく。」
この本には、強くなくとも、しっかりと光る星が散りばめられている。
スターシステムと揶揄される、今のスポーツライティング・スポーツ界の現状に対して、
二宮清純さんのように、ジャーナリスティックなわけでもなく、
金子達仁さんのように、スキャンダラスなわけでもなく、
玉木正之さんのように、アカデミカルなわけでもない。
『こんなのがあってもいいんじゃないかな?』そんな風に、山際さんは優しく語りかける。
それは、『スポーツは批判するものではなく、楽しむもの。』という、
山際さんの生き方を投影しているようですらある。
日本における最高のスポーツライターであると、僕は自身をもって推薦したい。
山際さんの集大成
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「江夏の21球」という(実質的)デビュー作以来、常に温かい視線でスポーツマンを観てきて、的確、冷静な説明をしてくれた山際さんの作品の「ベスト版」であろう。80編ものスポーツドキュメンタリー、エッセイなどは、どれもこれも、全て納得でき、しかも、不快感を一切残さない。
時として対戦相手のあるスポーツの論評の宿命として、贔屓の方をほめ、相手を責め、あるいは、贔屓の失態を罵倒するのがファンとしての義務であるなどというスポーツ評論に出くわすが、山際さんの作品にはこれがない。
この集大成というべき作品集は、どこから読んでも、どこでページを閉じても、不愉快な気持ちが残らないのは見事というしかない。
夭折の天才スポーツライターに合掌