主義は異なれど権力は腐る物
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日本共産党の「帝王」とも呼ばれた故・野坂参三を共産党除名(追放)に追い込んだ一因と言われる『週刊文春』のレポートを再編した本です。戦前の日本の共産党弾圧下でそれでも活動していた仲間達を、今度は自己保身のためにスターリン恐怖政治の下での強制労働、或いは処刑に追い込んだ片棒を担いだ野坂参三という人物の人間の醜さを、ソ連時代の公文書を元に見事に暴いた渾身の本です。野坂の「密告」のために人生を破たんさせられた人物が何人も紹介されていますが、やはり印象に残るのは山本懸蔵(野坂の同志でありながら、野坂の密告により処刑)の妻・関マツ(「第二章 望郷の女・関マツ」で紹介)でしょう。夫を追ってソ連に渡った物の夫が処刑されたりしたため、貧困の中日本への帰郷だけを願い続け、ありとあらゆる妥協をしたにもかかわらず、(おそらく)野坂のために日本への帰国手段を封じられ、最後は発狂死したという過程は悲しく、そして主義主張は異なれど権力に執着する人間というのがいかに恐ろしい物であるかをひしひしと感じさせます。
最も、文末の対談によるとこのレポートを書いたころはソ連崩壊期にあり、資料はほとんど整理されていない状態だったので、調査は非常に困難を究めたことが伺えます。今ならもうちょっと新しい資料が出てくるかも知れませんが、現在のロシアの体制下では、かえって締め付けがあって見られなくなってしまった資料もあるかも知れません。日本共産党の歴史に興味にある人のみならず、スターリン恐怖政治の実態を知りたい人も必読の本だと思います。