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日本の近代 猪瀬直樹著作集9 唱歌誕生 ふるさとを創った男 (第9巻)

価格: ¥1,296
カテゴリ: 単行本
ブランド: 小学館
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それぞれの人生 ★★★★☆
本書は唱歌「故郷」を作った高野辰之、岡野貞一という明治に生きた二人の男の物語である。彼らの作った歌は、文部省唱歌として教科書に載り、二人の名前は伏せられたままになっていたところに著者は鋭く切り込んでいく。

誰しもが中学校で教わる、土井晩翠・滝廉太郎という「荒城の月」をつくった名コンビは、主人公の辰之・貞一と同時代人で、「荒城の月」がつくられたのは、明治三十三年で、小学唱歌教科書編纂委員会で辰之と貞一が出会う約十年前なのである。「荒城の月」は必修の歌として、その成り立ちや作者の経歴などが学ばれている。十年といわずとも、せめてあと三年早く辰之と貞一がめぐり逢っていたならば、「故郷」は、「文部省唱歌」ではなく、「高野辰之作詞・岡野貞一作曲」として、華々しく音楽の授業に登場したかもしれない。しかし、彼らがそれぞれ故郷を離れてからの紆余曲折の二十年なくしては「故郷」の詞は誕生し得なかったのだ。

『唱歌誕生』には、島崎藤村、大谷光瑞という名脇役が登場する。主人公である辰之と貞一は陰の人生を歩んだが、彼らは陽を手にしていた。新体詩で文壇の寵児となり『破壊』で栄誉や名声を欲しいがままにした藤村は、光り輝くスターであった。金に厭目なくシルクロード探検に情熱を燃やし、人材教育に力を注ぎ、理想境を実現しようとした光瑞は、究極の夢追い人として大衆の目に眩しく映ったであろう。しかし、藤村は三人の愛娘を亡くし、光瑞の夢は人々の悪夢と化した。この二人は誰もがうらやむ陽とともに、想像を絶する陰を持ち合わせていたのだ。

一方、辰之と貞一は、平凡だがかけがいのない日々を暮らし、静かに老いた。彼の人生は、なだらかな起伏のある地味なものだったといえよう。しかし、彼らのつくった唱歌は、これからも親から子へと歌い継がれ、その詞は日本人の心を豊かにし、そのメロディーは日本人の心を癒してくれるはずである。