Appalachia: The Voices of Sleeping Birds
価格: ¥733
アメリカの「アパラチア」で生まれ育った人々のなかには、どうしてもその地を離れることができない人たちがいるらしい。なぜかときかれてもうまく理由を説明できないけれども、喜びだけをもたらしてくれるわけでもないのに、いつも立ち返ってしまう場所、それが故郷というものなのだろう。鉱山という過酷な産業を生業とし、決して優しくはない自然によって出来上がったアパラチアの風景とそこに暮らす人々の日々の営みを淡々と綴った本書は、静かで慎ましく清らかな印象を残す。華やかさには欠けるが、大都市ばかりが注目を集める大国となってしまったアメリカがいつまでも大切に記憶し続けなければならない時代と場所をていねいに描いている絵本である。 アパラチアを旅した人々によって撮影された写真にもとづいて描かれたという絵は、光と影をとらえて実に深く落ち着いた佇いを見せ、また、その地に暮らす人々の人生の一瞬を見事に切り抜き、人の心の襞に射す光と影をも強いコントラストで映し出しているようだ。(み)