地方検事になるのを夢みるハモンド・クロスは、高潔で非の打ちどころのない自分の人となりを長年アピールし続けてきた。そんなある日、ハモンドの調べで、地元の大物リュート・ペティジョンが汚職にかかわっていることが判明する。ハモンドは、たとえ実の父親に嫌疑がかかっていようと、自分が進むべき正しい道を確信している。しかし、とりたてて変わったところのないこの事件が、ペティジョンの殺害によって、複雑な様相を見せはじめるのだ。しかも、事件当日のハモンドのアリバイを証明してくれるのは、禁断のロマンスの相手、ドクター・アレックス・ラッドだった。彼女には殺人の容疑がかかっている。
ブラウンの、テンポのよい会話、特異なキャラクター、ひねりの利いたストーリー展開は、現代ミステリーでありながら古典的な探偵小説のようだ。中には、最初から最後まで先が読めてしまう、ダシール・ハメットが喜びそうなタイプの登場人物(「酔っ払いは良きパートナー、明るい髪に暗い過去の人物は社交界の名士」)もいるが、それ以外は、今までになく個性的なキャラクターだ。ハモンドの内なる葛藤が激しさを増し、恋愛問題や身の危険がピークに達するころには、一心不乱にページをめくり続けてきた読者は、批評家の言葉などどうでもよくなるだろう。