女のだらしなさと脆さ
★★★★★
主人公マノン・レスコーは不思議な女である。
デ・グリューと共に愛の駆け落ちをしたかと思えば金に目がくらみあっさり金持ちの老人と結婚してみたり
そうかと思えば金持ちの老人に飽き飽きし、彼女の元へ来た自分を熱く愛するデ・グリューを選ぶ。
マノンは読み手によって受け取り方は違うかもしれないが全てが矛盾に満ちた女性だ。
金に目がくらむかと思えば熱くデ・グリューを愛している。(クライマックスを見ていただければわかるだろうが)
悪行の限りを尽くす彼女だがどこか純粋で憎めない。
この2つの矛盾した彼女の世界を繋いでいるのが「女の脆さ」である。
女性はおしゃれやブランドが好きである。
女性は金のある男が好きである。
しかし女性は全てをかけた本当の愛を求める。
自分の欲望に逆らえないマノンの「意志の弱さ」が彼女の脆さであり、同時に不幸をもたらす。
砂漠に死んでいったマノンは今でも女の脆さをリアルに表している。
彼女が手に入れたかったのは金でも贅沢でもなく心から満たされる本当の満足だったのしれない。
プッチーニの女性像って・・。
★★★★☆
マノンが、こんなに奔放な女性像とは、観るまで知らなかった。
ヴェルディの描く女性像は、マクベス夫人とかの例外はあるが、多くのヒロインはこころ優しい古典的な女性であり、強い個性が無いケースが多い。
それに比べて、プッチーニの女性像は、非常に元気で個性的だ。
マノンもしかりだが、トゥーランドット姫、トスカ、外套のジョルジェッタ、ボエームのムゼッタなど。
こころ優しい古典的な女性といえば、蝶々夫人、トゥーランドットのリュー、あとは解釈によるようだが、ボエームのミミぐらいか。
いずれにしろ、ヴェルディと女性の好みが違うのか、時代の違いなのか不明だが、とにかく、強い女性も、古典的な女性も女性の個性が強い気がする。
この作品でも、1幕と2幕のマノンの変わりようには、驚きを隠せない。
マノンをさらったつもりでいながら、翻弄されていくデ・グリューも、変わったといえば変わったのかもしれないが。
最後に死んでいくマノンには失礼だが、「女は強い・・」と思わせた演目である。
しかし、伸びやかなドミンゴとキリ・テ・カナワの声は、とても気持ちが良く、また、全身を音楽にして指揮をする故シノーポリもとても良い。
二人の細かな演技もとても自然で、各幕の移り変わる背景と衣装に溶け込んだ感じがする。
個人的には、財務官ジェロントのファーブス・ロビンソンがあまりにはまり役で感心・・。
歴史的名演
★★★★★
ドミンゴの超合金アクートが、一ミリの錆も不純物もなく輝きを放っていた時期の作品。特にこの作品の中ではドミンゴはレッジェーロを意識して歌ったのかしら。とても透き通った超合金アクート。言うなれば、
クリスタルアクート!
恐らく、これ以上の舞台芸術作品は、もう出てこないのではないかしら。なんて知ったような事を言ってみたくもなるのです。星6つ付けたいくらいです。
この演奏を、ともくんは
「1983年5月17日の奇跡」
と個人的に呼びたいと思います